カイロタイムズ099号
5/8

(5)2014年11月1日発行 カイロタイムズ 99号 太っているから膝が悪くなる?膝が悪いから太る?「どっちやねん?」と鶴瓶が叫ぶTVコマーシャルがあったのを覚えています。 世界保健機関(WHO)は、2000〜2010年を「運動器の10年」として運動器疾患の克服キャンペーンを実施しましたが、成果の上がらないままに2020年までキャンペーンを延長しました。これを見ても運動器疾患の対応の難しさが分かりますが、ファシア(筋膜)という重要な身体構造を見落としてきたことに原因の一つがあると考えます。 写真はアキレス腱の痛みを訴える36歳男性の症例ですが、種々の療法を試したものの改善が見られず、Grastonテクニック(GT)を求めて来院されました。たった一回のブラッシングストローク施術で運動時の痛みが消えたとのことでした。 しかし、痛みが消えたのと快癒とは違います。左右の腱の太さを比較すると(写真上)明らかな太さの違いがあり、硬さ、強度にも違いがあることが想定されます。施術計画としては、1回(1週あたり)×8週を目途としていますが、その間も運動を制限することはありません。なぜなら、GTで施術することにより線維芽細胞が遊走し、腱コラーゲン線維を増産しますが、その線維を正しく配列し機能的な回復を達成する為には正しい負荷が不可欠だからです。GT施術と運動負荷によりアキレス腱は収れん収束し、太さが対側と同じになった時点で、密度・硬さ・強さが回復したとして、晴れて快癒ということになります。また、明らかな部分断裂を伴う症例では、患部がこぶの様に盛り上がっているものもありますが、これもGTで施術を続けると均一の太さに戻ります。 それでは筋膜に対する正しい負荷とはどのようなものでしょう。これらの症例に対する、再負傷を防ぐための治効エクササイズ及びフィットネスとして筋腱複合体の伸長-反撥特性を効率よく利用した素早く軽い動作ということになります。また、ランニングドリルとして、着地時の衝撃エネルギーを筋膜の伸長として貯めることで、離地プッシュオフ時に筋膜の短縮反撥が得らます。ただし、これらの動作には、当該筋膜群の健全な滑走が条件となります。アキレス腱症どの毒物を与えて吐かせたり、膝の痛い患者には、ヒルに血を吸わせたり、前近代的な手法がまだまだ多かったようで、彼が医学を洗い直したというのも当然のことかもしれない。 もう一点、彼の医学に対する考え方で特筆すべきは、薬に対する「嫌悪の念」である。彼の兄弟が痛みの緩和にモルヒネを使い続け、ついにはモルヒネ中毒になってしまったため、以前から、薬を用いた治療に疑問を抱いていたATスティルはますます薬を嫌うようになった。オステオパシー大学でも薬理学は必要ないとされていたため、一時期、DOの薬理学は医師国家試験でもウィークポイントの時代があった。それが創始者の意思とあれば仕方のないこと…かもしれない。 本紙は『カイロタイムズ』であり、当然、読者の多くはカイロプラクターだろう。カイロプラクティック創始者のDDパーマーと、オステオパシー創始者ATスティルM.D.は同じ時代に米国中西部に住んでいたという。DDパーマーについては読者の皆さんがよくご存じであろうから、今回はATスティルについてご紹介したい。 1818年バージニア州に生まれたATスティルは、父の跡をついで医師となり、南北戦争時は北軍の兵士として戦い、州議会の議員として活躍したとのことである。幼少の頃、頭痛もちだった彼は、ある昼下がり、庭で本を読んでいた時、いつものように頭痛に襲われた。仕方なく、横になった彼は、庭にあったブランコを首に引っかけると、知らぬ間に寝てしまった。ほんの15分ぐらい寝ていただろうか、起き上がった彼は、いつもの重い頭痛がすっかりなくなっているのに気が付いた。 後に、悪い疫病が流行った際、医師でありながら脳脊髄膜炎に罹ったわが子たちを救えなかった彼は、「医学はどこかが間違っている」と思い、解剖学を中心に医学を洗い直した。インディアンの墓を掘り返し、遺体を取り出し解剖を行ったそうだ。その結果、彼の目には、筋骨格系の大切さがクローズアップされてきたのであろう。このことが幼い頃の記憶を呼び覚まし、頭痛という生理的な症状と、首を引っかけ伸ばすという筋骨格系の力学的な現象には、何らかの関わりがあることを確信した。彼は研究をつづけ、1874年6月22日、遂にオステオパシーという新しい医学を作り上げた。 ATスティルの時代の医学は、食中毒の患者には水銀なオステオパシーのルーツ 1999年、ロサンゼルス・カレッジ・オブ・カイロプラクティック(LACC)の3学期を迎えた私には「一つの疑問」があった。「せっかくカイロプラクティック(以下、カイロ)の大学に入ったのに1、2学期は解剖学や生理学を中心とした勉強に追われて、何もカイロのことが分からない?!」。そこで、「大学で教えてくれるのを待つより、3学期は積極的に学外セミナーに参加してみよう!」と思い立った。 初めて参加したガンステッドセミナーは、ロサンゼルスから車で約2時間のリゾート地・パームスプリングス。ガンステッドのイロハも知らない私は、当然ベーシック・クラスを受講した。講師のジム・ストーナーDCの早口と講義のスピードに食らいつきながら必死にメモを取った。 そして、200種以上のカイロ手技の一つだと思っていたガンステッド・テクニックは「ガンステッド・システムである」ということを学んだ。問診、視診、ナーボスコープによるインストルメンテーション、静的・動的触診、レントゲン写真によって最終的にサブラクセーションの場所を決断、そのリスティングを分析してアジャストを施す。この一連の流れがシステムと呼ばれる所以だった。  また、セミナーで驚いたことは学生のみならず、「オールドタイマー」と呼ばれるベテランDCまでがセミナー講師陣からアジャストを受けていることだった。イリノイ州のドワイト・ガンダーソンDCは、「このようなリゾート・セミナーには家族連れで来ている。セミナーでは知識をアップデートしたり、臨床ケースをシェアしてお互いの学びにしたりするのはもちろんだが、一番の目的は、自分の体をケアするために最高のガンステッド・ドクターにアジャストしてもらうためだ」と話してくれた。 強く印象に残ったのは、講義の最後にストーナーDCが言った言葉だった。「どんなテクニックを選択するか? それはあなたの自由。だけど、Please Move The Bone!」。 ガンステッドセミナーとの出会い小野 弘志DCGCJスタッフ 小 野 弘 志 DC山形県酒田市出身 43歳米国ミシガン州カイロプラクティック開業免許取得柔道整復師、NPO法人元気王国理事、NPO法人山形県トレーナー協会理事2002年 LACCロサンゼルス・カレッジ・オブ・カイロプラクティック    (現Southern California University of Health Sciences)卒業2004年 山形県酒田市にファミリー・カイロフプラクティックを開業2010年 ガンステッド・サムライ賞・金賞授与    LACC在学中ガンステッドに傾倒、LACCガンステッドクラブの日本人初プレジデント就任小野 弘志(おの ひろし)DC プロフィール 以前、香港人と日本人の文化的な違い(商人文化と職人文化)について少しだけお話しましたが、今回はクリニックシステムの違いについてお話しします。 以前述べたように、香港・中国では師弟制度というものは完全に崩壊していると言っても過言ではありません。ましてや、一昔前の日本のように修行またはインターンだからという理由で、朝から晩までクリニックに拘束し、お小遣い程度の給料しか渡さなかったら確実に労働監督署に訴えられます。そこでは「教えてあげているのだから」というこちらの言い分は一切通用しません。あくまで政府が決めた労働時間、最低賃金を守っているかどうかが焦点となります。 また、お金と仕事についての感覚が日本人とは異なります。一番分かり易い例が「なぜカイロプラクターという仕事を選んだのか?」という質問に対する返答だと思います。大半の日本の先生方の答えは、「困っている人を助けたい」とか「どこに行っても良くならなかった患者さんに奇跡を起こしたい」であり、たとえ心の中で思っていても「お金が稼げそうだから」という言葉が出てくることはありませんよね。香港では確実に「お金の為。他に何があるの?」という答えになります。 では、香港ではどのようなシステムでカイロプラクターを雇っていくかというと、完全歩合制が多いです。自分が診た患者がクリニックに払った分の何%か(40%〜50%が相場)が自分の給料になるということです。 この条件を聞いて、なんて良い条件なんだと思った方も多いかもしれませんが、そう甘いものではありません。これはただ待っていれば院長が患者を分けてくれるという意味ではありません。自分で自分の患者を探してこなければなりません。一人も患者がいなければ一日中クリニックで待機していても給料はゼロです。これは新卒であろうが、何年かアメリカで臨床をしていて香港に戻ってきたカイロプラクターであろうが同じです。 そして、自分が手に負えない場合はもっと経験を積んだ先輩が助けてくれるという訳でもありません。自分の患者は自分が責任を持って診るということです。自分には難しいという理由で他のカイロプ青 耕平DC香港と日本の文化の違いラクターに助けを求めるということは自分の患者を失うということです。そしてそれは自分の収入に直接響いてきます。自分でクリニックを経営している先生からすれば当たり前ですね。 香港と日本ではこのようなシステム・考え方の違いがありますが、どちらが良い・悪いという訳ではありません。しかし、最近はブラック企業などの問題も大きく取り上げられるようになってきていますので、日本でも上述の徒弟制度のような賃金体系は減っていくのかもしれませんね。

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です