カイロタイムズ098号
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(3)2014年8月1日発行 カイロタイムズ 98号【患 者】 47歳 男性 会社員【主 訴】 後頭部から上頚部痛【その他の症状】 前頭部痛、目の奥の痛み、胸や背中の痛み、腰痛、不整脈、不眠【検査結果】 レントゲン、MRI検査での頚部、脳内の異常なし。 血液検査でリウマチ因子が若干高い。CRPは基準値より若干高い。大学病院で副腎疲労症候群と診断され、コルチゾールが出ていないという結果からホルモン療法を薦められたが、行っていない。【問 診】 後頭部から上頚部痛と前頭部痛は5年前に発症した。始めは、目の奥の痛みとあごの痛みに加え頭痛が起こり、ひどい時は嘔吐あり。次第に後頭部から上頚部の痛みがひどくなった。ペインクリニックや整形を受診し、痛み止めの薬を処方されるが、変化はなかった。この症状のため、1年前から仕事を休職し、治療に専念するが、症状の変化はない。現在、後頭部から上頚部痛の症状は朝起き上がる時にひどく、通常は首の両側の痛み、胸の前と背中の痛みへと広がる。男性はたくさんの本を読み、リウマチの本を読んだ後に、両手の痛みを訴えた。【痛みレベル】 VAS5(本人曰く、それほど痛い経験をした事がないので、VAS10に当たるほどの痛みは分からない)【検 査】 頚部を動かさないでじっとしていても、後頭部から上頚部痛があり、頚部屈曲の動きで頚部後面が伸ばされての痛みは多少悪化する程度で、それ以外の動きでの症状の悪化はない。初回には腰痛を訴えなかったが、3回目の来院では腰痛を訴え、動きによって痛みの変化はない。前頭部の痛みも、初回はないが2回目と5回目の来院で訴え、手で押すと悪化するが、動きで痛みの変化はない。【検査結果から】 通常、機能障害の場合は動きによって痛みを誘発する。しかし、男性の場合は安静時で痛みがあり、動きでの変化はない事から、機能的な問題ではないように思われる。また、痛み自体への感受性が高いように感じられた。痛みの閾値レベルが下がった状態。【治 療】 始めはアクティベータ治療(以下AM)ベーシックを行ったのち、心身条件反射療法(以下PCRT)を行った。PCRTは患者に深呼吸してもらい、呼気の最後に丹田か脳幹部に振動刺激を行い、誤作動信号の調節を行うものである。 検査結果から機能障害ではないと考えたが、男性とのラポールを円滑にするためにもAMを行うこととした。【初回の治療の流れ】 AM後、PCRTを行う。朝の痛み↓身体感覚 寝ている時の姿勢。仕事↓感情 イライラ。家族↓感情 不満。 寝ている時の姿勢で陽性反応。男性に「朝起きて痛い後頭部から上頚部痛」をイメージしてもらい、関連する感情としてイライラで陽性反応。会社の社員2名、息子で現れる不満で陽性反応。PCRT施術で誤作動の調整を行う。【2回目から7回目の治療のまとめ】 AM後、PCRTを行う。朝の痛み↓会社↓感情 イライラ。過去の自分↓感情 我慢。息子↓感情 イライラ。父↓感情:怒り。寝ている姿勢↓身体感覚。医者↓感情 不安。リウマチ↓感情 不安。電車↓感情 イライラ。 会社や息子や電車内の人で感情はどれもイライラで陽性反応。医者やリウマチの感情として不安で陽性反応。父親への怒りで陽性反応。斜めのマットレスで陽性反応。PCRT施術で誤作動の調整を行う。【8回目の回復への転機】 眠れないほどの後頭部から上頚部痛があり、リウマチ情報をインターネットで検索し、自分の症状と類似するリウマチ症状を見つけて不安を感じていた。そして、徐々に両手の痛みも感じ始めたと訴えた。AM後、PCRTを行う。息子への愛情が伝わらないもどかしさに陽性反応。自分自身の弱さに陽性反応。 その後、後頭部から上頚部痛の確認をすると痛みは消失した。ところが、痛みの確認を男性に伺うと「痛みは今はないですね」と単調な答えで、全く無感動の様子だった。そこで、「痛「不 定 愁 訴」症例報告3-Ⅵ 心身条件反射療法協会みが無い事に全く感動していませんがどうしてですか?」と質問すると、「今は無いからです」と答えた。ここに男性の症状改善の希望が疑わしく思えた。そこで、「痛みが無くなって困る自分はどんな自分ですか?」と質問すると、深く考えたのちに「痛みを理由に逃げている自分」に気付いた。痛みが無くなる↓陽性反応。PCRT施術で誤作動の調整を行う。 9回10回の来院時、痛み消失。【この症例で学んだ事】 痛みの消失後の無感動の男性に対して、疑問を直接聞いた事は良かった。男性自身の気づきに繋がり、痛みの消失につながった。また情報過多の時代に、情報によって症状を誘発してしまう要素も見られた。病気を見るのではなく、健康を見るというように視点を変える事は患者にとっての利益となるのではないだろうか。【考 察】 不定愁訴は精神的な要素が大きく関わる疾患である。本人も薄々気付いているが、どうする事も出来ない。PCRTでは感情と症状との結びつきをはっきりとみる事ができる。しかし、この検出した反応を伝えるにあたり、気遣いと配慮と工夫が必要となる。イライラや怒り、不安で多く反応する男性だが、それをそのまま伝えても、男性の気づきにつながらない。そこで、仕事や家庭での背景を語れる範囲で聞き、その中での感情を少しずつ切り替えるように配慮することが大事である。また、誰でも同様な感情は抱えているが、それが全て不定愁訴になるわけではない。ものの見方が変われば感情は変わり、症状も変わる。そのための気づきを患者と一緒に探り解決し、症状が改善された症例の一つであった。第45回ダイレクトテクニック仲井康二DC, CCSP これまで基本的なカイロプラクティクのテクニックの考え方や、第12胸椎から後頭環椎関節に及ぶサブラクセーションとの関連、各椎骨と特定な臓器との繋がりなどを、長期に渡ってご紹介してまいりました。本当に長いお付き合いとなり、まことに恐縮しております。 今回から残りの腰椎(第1~5腰椎)との関連をご紹介させて頂き、54号(2007年1月号)から連載してきた「ダイレクト・テクニック」を一端終了し、リフレッシュした際に、新たな情報を提供させて頂きたいと願っております。 前回、カイロプラクティックの治療は、筋骨格系の歪みを正すことで多くの問題を取り除くと共に、自律神経にも影響を与えるとお伝えしました。 自律神経は不随意神経ですから、自分で意識して調整することは殆ど出来ません(熟練したヨギ*は別ですが)。敢えて自分で自律神経を調整できるのは呼吸だけだと思います。吸気は交感神経、呼気は副交感神経支配ですから、深呼吸や、吸気を早めて呼気をなるべく長く続けることで、抑制された副交感神経を高めることが可能です。多くの健康法が拘わる呼吸法の目的は、ここに置かれています。また右側の鼻が副交感神経支配で、左側が交感神経支配と考えている人もいます。 自分では調整し難い自律神経ですが、自律神経に対する幾つかの検査方法はあります。その中の一つが回盲弁を使った検査法です。 回腸の末端が直角に近い形で、盲腸と上行結腸の結合部に突出して、括約筋から成る回盲弁を形成しています。上下2枚のひだは生体では円形に近く、両側で結合して回盲弁小帯を作ります。弁は膣内に突出する子宮頚に近い様相を呈しています。回盲弁は、大腸に移動した内容物(び粥)が小腸に逆流するのを防いでいます(図1)。回盲弁は右側のASISとお臍を結んだ線を3等分した、下1/3~2/3の辺りに位置します。 小腸内のび粥が少ないときは、括約筋が収縮して回盲弁を閉じ、び粥を小腸に停滞させて多くの栄養分を吸収します。しかし回腸内のび粥が増えて,回腸壁が伸張されると、括約筋が弛緩して回盲弁が開き、び粥を結腸に送り込みますが、この時は副交感神経が作用します。また胃に食物が入ると、回腸の蠕動運動が活発になり、括約筋が緩んで弁が開きます。これを胃回腸反射と呼びます。 AK(アプライド・キネシオロジー)では回盲弁の異常による様々な症状を回盲弁症候群と呼び、“開口”と“閉鎖”回盲弁症候群に分けています。開口回盲弁症候群は、大腸の内容物が小腸へ逆流してしまう状態で、反対に閉鎖回盲弁症候群は、緊張した回盲弁が回腸から結腸への流入を阻止したり、結腸への流動を阻止した状態を指します。 一般的に回盲弁は副交感神経の活動で開口し、交感神経の活動で閉鎖すると考えられています。またAKは副腎機能の低下が回盲弁の開口障害を引き起こし、反対に副腎機能の亢進が、回盲弁の閉鎖障害を引き起こすと考えています。また回盲弁症候群は、食物の摂取にも影響を受けやすく、季節の変わり目や、食物の内容の変動が大きく影響を与えやすく、特に糖類(炭水化物)摂取量の増加も影響を受けやすいと考えられています。 季節の変わり目は、冬場の交感神経優位から、夏場に向けての副交感神経優位に変動しますので、そのバランスの変動が、身体に大きく影響を与えます。これは春先や秋口に花粉症が増えることと同様の関連があるかも知れません。 胃酸過多と胃酸不足が共通した症状を訴えるのと同じく、回盲弁症候群の開口と閉口障害も共通した症状を訴えます。それは動悸、活動時の腹痛、偽メニエール、偏頭痛、浮腫、右肩の疼痛、耳鳴り、吐き気です。 検査方法としては、まず指標筋を定めます。大腸と関連する大腿筋膜張筋(特に右側)や、回盲弁の近くを走行する大腰筋(同右側)が適していると思います。次に前述したASISとお臍を結んだ線上の下1/3~2/3の辺りにTL(セラピー・ローカリゼーション)した状態で、指標筋が弱化するかを検査します。もし弱化を示した場合は、回盲弁症候群を疑います。 続いて、その状態から患者に左肩に向けた押圧を持続させながら再検査します。もし弱化した筋力が回復する場合は、開口回盲弁症候群となり、副交感神経優位である状態であることを指します。反対に右のASIS方向に押圧を持続した状態で、弱化した筋力が回復するのであれば、閉口回盲弁症候群となり、副交感神経が優位となっている状態です。 治療にはリンパ反射点や神経血管反射点の刺激などがありますが、自分は余り用いたことはありません。サブラクセーションもAKでは、開口回盲弁症候群はL1、2、閉口回盲弁症候群はL3の前方変位と考えていますが、自分は自分なりの治療を施しています。それで陽性を示した反応が消失しますので、自分なりの治療法で構わないと考えています。 つまり自分は自律神経のバランスが崩れているかを知るために、回盲弁を利用しているのであって、決して回盲弁自体に問題が生じているとは考えていません。もちろん吸気や呼気を利用することもできますが、筋力検査は吸気や呼気の途中に行います。吸気を終了した時点や、呼気を止めた時に検査をすると、違った検査結果が出ますのでご注意ください。 自律神経のバランス低下は、一般的に多く認められる徴候です。多くの人は交感神経優位で、副交感神経が抑制されています。これは普段の仕事や勉学などによるストレス、日常生活の乱れ、食事の摂取時間や内容の偏り、悪い姿勢からの影響と、数え切れないほどの可能性があります。 カイロプラクティックの治療は、抑制されている副交感神経を回復させ、反対に優位になっている交感神経を鎮めることが可能です。しかし前述したように、自律神経のバランスは、多くの因子により乱れるため、その根本的原因を探し出すことは難しいと思います。しかし原因を突き止めなければ、根治させることは出来ないのも事実です。それを突き止めて行くのが自分たちカイロプラクターの使命であると信じています。 (*)ヨギとはヨガを行う人をいい、熟練したヨギ   は自律神経を自在に操れるそうです。第1腰椎回盲弁Tsuchikoカイロプラクティック オフィス院長土 子 勝 成 B.C.Sc(図1)

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