カイロタイムズ097号
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(6)2014年5月1日発行 カイロタイムズ 97号 今回と次回は、私のシンガポールでの臨床経歴と合わせて、当地のカイロプラクティック史についてお話したいと思います。 シンガポールで初のカイロプラクター就労ビザを受給されたのはアメリカ人で、1978年のことでした。それに続いて83〜87年にかけて数名のDCも開業し、88年にはシンガポール・カイロプラクティック・アソシエーションTCA(S)の基礎が形成されました。 1990年にはWFCの構成団体にもなり、当地でのカイロプラクティックプロフェッショナルリズム改善と、更なる熟成期が重なり合い、90年代に会員は徐々に増えていきました。 2000年には健康省(MOH)とミーティングを行い、2002年にセルフレギュレーション展開及び構築がされました。 ちょうどそんな中、2001年7月、あまり深く当地のカイロプラクティック事情も調べずに、何とかなるといった気持ちで、私はシンガポールにやって来ました。 最初に働くことになったのは、香港出身の企業家が設立したクリニックでした。この企業家は、カイロプラクティック治療を受け、感動し、その啓蒙プロジェクトを始めました。私の職場は、その一環で作られたクリニックでした。 当時の私は、TCA(S)の会員になることや、他のクリニックのDCと交流することなどを禁止されていました。私のクリニックとTCA(S)は、様々な面で折り合いが付かず、交流を持っていなかったことが後に分かりました。(実際、私自身も、両者はお互いの存在をネガティブに捉えているように感じた時もありました。) 特に、オーナーである香港の企業家のカイロプラクティック宣伝方法などは斬新すぎて賛否両論があったようです。しかし、彼の身近で働いていた私にとっては、決して、実情を知らない他の人が言う程悪い物では無かったと思います。 残念ながら、私が働き始めてたった10ヶ月で、オーナーの突然の死去により、クリニックは閉鎖されました。しかし、この間に本当に多くの貴重な体験をすることができ、大変感謝しています。 その後、色々な経緯を経て現在のクリニックに落ち着き、2003年頃にはTCA(S)に入会することとなりました。 (次号に続く)シンガポールカイロプラクティック史①齊田貴文DC 香港で診療を行う上で日本と異なることの一つが店舗です。香港は人口が密集しており、大きなスペースはとれませんから、クリニックの平均的な広さは約37〜46平方メートルです。 それに加え、近年の中国本土の住宅バブルにつられ、香港でも不動産価格が過去最高となっています。現在私が所属しているクリニック2店舗の家賃合計は日本円にして100万円以上です。 また、店舗は通常2年賃貸契約で、契約更新時は確実に家賃が上がるため、多くのクリニックが数年ごとに引っ越しをします。日本では考えられないことですが香港では一般的です。 次に、香港では、テクニックセミナーがほとんど存在しません(少なくとも通知を受け取ったことはありません)。師弟制度がないことが1つの理由だと思います。日本では多くの場合、在学中や卒業後に技術や経営面のことを学ぶため、カイロプラクティッククリニックや整体院でインターンを行うと思います。しかし、香港人はこう考えます。「なぜ同じステータスの免許しか持ってない人から習う必要があるのか?」「自分には自分のやり方がある」日本では毎週のように開かれる魅力的なセミナーで技術や知識を磨くことでき、またそこでは新しい仲間にも出会え、さらに切磋琢磨することができますが、香港ではそういったことは起こりえません。 では、どういったセミナーが人気かというとマネージメントに関するものです。システムや、患者へのトーキングや教育といったことを学ぶのには非常に熱心です。突き詰めれば両方ともクリニックの収入を増やす為の勉強とは言え、職人文化と商人文化の違いが如実に表れていると思います。 私は日本がカイロプラクティックの最後の砦だと考えています。学生ではなく、既に開業している先生達が定期的に集まって勉強会や練習会を開いているのは世界でも日本だけだと思います。皆さんがカイロプラクティックをよい方向に導いて行ってくれると信じています。私も日本で開かれるセミナーに時々参加していますので、もし見かけたら声を掛けてくださいね。青 耕平DC香港と日本の臨床の違い 法制化のない日本と違い、アメリカでカイロプラクティックを業とするには様々な要件を満たしていかなければなりません。高校を卒業したばかりの日本人青年が留学を志した場合を想定して、その要件を紹介していきましょう。 先ず、日本人が問題になるのは英語力で、その為にESLという英語を母国語としない外国人を対象とした英語教育課程を受ける目的で、一般の短大・大学から入学許可をもらい、学生ビザ(F1)を取得して初めてアメリカに留学できることになります。 ESLを修了し、TOEFLという英語力認定試験で所定の点数を取得すれば、ようやく一般大学でCCEが要求するプレ・カイロプラクティック課程(4年・学士号レベル)に進むことができます。生物学、無機化学、有機化学、物理学などのCCEの求める科目・単位・成績を満たして卒業しなければなりません。 そしてようやくカイロプラクティック大学のDC学位課程(4年・大学院レベル)に入学することになりますが、ここで解剖学などの基礎医学、診断学、放射線学、カイロプラクティックの理論やテクニックなどを学び、大学付属クリニックで臨床体験を経て卒業します。これでDoctor of Chiropractic(DC)学位を取得するのですが、それだけではドクターと名乗ることも、カイロプラクティックを業として臨床することもできません。 NBCEという米国カイロプラクティック国家試験のパート1から4まで全てに合格しなければなりません。その上で、臨床したい州の試験合格など条件を満たせば、その州政府から開業免許が与えられます。この免許を取得して初めてドクターであり、その州で臨床することが可能になります。大学を卒業はできても国家試験に合格できず、免許取得ができないまま日本に帰国、または東欧などの免許を必要としない発展途上国で臨床する日本人DCも少なくないのが現状です。 また、労働ビザ(H1b)を取得できなければ、卒業後1年以内に米国を去らなければなりません。労働ビザを取得するには、それを支援してくれるクリニックに雇用されなければなりませんが、これが日本人には難しいのです。DC学位、開業免許、労働ビザの取得という要件を全て満本場アメリカで臨床する松下順彦DCたす(勝ち取る)ことができて、ようやく本場アメリカでカイロプラクティックを臨床することが可能になります。しかし、実はこの時点でカイロプラクターとしての臨床のスタート地点に立ったに過ぎないのです。 ここから、目の前にいる患者を世界で最も重要な人と考え、己の持つ知識と技術を傾注してナーボスコープや触診などの検査を行い、X線写真分析でサブラクセーションの方向を確認し、愛情とともに全身全霊を込めてアジャストメントを提供するという経験を積んで、一人前のカイロプラクターになるための階段を登ることができるのです。 決して容易ではありませんが、不可能でもありません。志の高い挑戦者が後に続いてくれることを期待しています。 今号からスタートする臨床栄養士が語る症状別の栄養療法の1回目は、栄養療法の効果を左右すると言っても過言ではない、消化分解と吸収に直接的に影響を与える、胃酸と酵素について紹介したい。 「患者の症状の改善に、ビタミンやミネラル、アミノ酸が有効だと聞き、食事指導のほかサプリメントの摂取指導もしているが、期待するほどの効果が現れない。どのメーカーのサプリメントがお勧めなのか教えて欲しい…」医師や薬剤師から寄せられる問い合わせで一番多い内容であり、栄養療法を進めていく上で最も注意するべき内容でもある。 最近日本でも、症状の改善のために、食事から摂取する栄養素やサプリメントを積極的に導入した栄養療法に関心を持ち、実践されている医療施設が増えたように思う。食事やサプリメント服用では、ビタミン、ミネラル、アミノ酸などの栄養素を経口で摂取させることが前提であり、薬とは異なり、効果有無の結果を得るまでには様々な条件とプロセスを経る。したがって、その背景を知っておくことが重要である。そのプロセスを左右する最初の環境条件が、胃腸の働き、および胃酸と酵素の働きであり、このプロセスは栄養療法の効果にも直接的に影響を与える。 また、右下の図のように、食べた食材、およびサプリメントなども、胃で胃酸と酵素によって消化分解され、腸に送られて初めて吸収される。しかし、腸に送られた栄養素は皆同じように、同じ場所で吸収されるわけではない。 日本では、栄養療法または、サプリメントを用いた症状改善のサポートを試みる医師の中に、サプリメントメーカーの違いが効果の有無を左右すると考えている医師が少なくないが、メーカーの違い以前に、患者の胃腸の働きと胃酸、酵素の分泌状態を把握し確認することが、栄養療法の効果を左右する最大のポイントと言ってもいいと思う。症状の背景に潜む 消化分解と吸収能力栄養医学研究所所長・米国臨床栄養士・鶴見大学歯学部非常勤講師1958年生まれ。玉川大学農学部卒業。カナダブリティッシュコロンビア州ブリティッシュコロンビア大学マラスピナ分校留学。米国National Healing College 臨床栄養士(CNN)、ホリスティック栄養士、ハーブ処方師、医学博士合取得。ドイツMicro Trace Mineral Research Center研究員。主な著書に『子供を勝ち組にする食事学』『サプリメントガイド』(主婦の友社)などがある。ヒトの細胞が利用しやすいサプリメントを医師・歯科医師向けに開発しているほか、神尾記念病院と青山外苑前クリニックでサプリメントや栄養指導を行っている。佐藤 章夫(さとう あきお)プロフィール

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