カイロタイムズ097号
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(3)2014年5月1日発行 カイロタイムズ 97号【患 者】 女性 50代 会社員【主 訴】 硬いものを噛んだ時に顎がガクッとなり、その後だんだんと左顎の痛みが酷くなる。【病 歴】 今回の主訴は、直近の出来事である硬いものを噛んだ後からの左顎の痛みであるが、20年位前に自転車事故で左顔面を強打、左顔面麻痺になったことあり。以降、主訴発生前も、顎の痛みに伴う開きの悪さと食事時などのカクッという感覚はずっと感じていた。【問 診】 自転車事故から長年痛めていた左顎なので元々弱いから仕方ないこともあるのだけど、今回の痛みで食事を摂るのも不自由なので何とかしたいとの訴え。【施 術】・1回目 開けるのも噛むのも痛い。開口値(MOM) 指1本カクッという。(音、感覚)施術は、主訴の硬いものを噛んだ時の衝撃以降酷くなったという事からまずハード面(肉体面)から神経関節機能障害の改善のためアクティベータメソッドにて行う。ベーシック+TMJ(側頭下顎関節)をプロトコルに沿い施術。(以降アクティベータはAM)MOM 指2本。開け閉めもスムーズになる。・2回目 カクッという感覚と痛みはあるが、だいぶ調子よく食べるのも楽になった。MOM 指3本。AMにて神経関節機能障害へのアプローチ後、問診時から「脳の学習記憶」による問題が疑われたので心身条件反射療法(以降PCRT)にてエネルギーブロック(以降EB)をチェック。セルフイメージ(症状のある自分を客観的映像的イメージ+聴覚情報「治るのに時間がかかるだろうな〜」)にてEB確認(陳述記憶)。PCRT調整。・3回目 前回までの施術にて、硬いものを食べた事により酷くなった痛み、つまり主訴に関してはほぼOKとなる。後は元々あった自転車事故後継続していた左顎開けきったときの痛みとカクッという感覚だけとなる。AMにて神経関節機能障害改善後、PCRTにて自転車事故前後の状況を時系列に沿ってEB反応をチェック。事故後朝起きた時の自分の顔を見たシーンにて陽性反応。PCRT調整。・4回目 AMアプローチ後、PCRTにて感情面を検査。「連帯感」にて陽性。患者さまも思い当たる事あり。左肺の経絡EBと併せPCRT調整。・5回目 左顎開けきろうとしたときに少しだけカクッという感覚と少々の痛みが残るが調子は良い。AMアプローチ後、PCRTにて事故時の「学習記憶」をチェック。以下の2つの陽性反応。・自転車で転んだシーン(出来事記憶、映像的記憶)・事故で痛めたし、ずっとだからカクッとするのは仕方ない(意味記憶、言語的記憶)PCRT調整。・6回目 痛みは全くなく顎の調子は非常に良い。硬いものを噛んだ時や口を大きく開けた時にカクッという感覚が本当にたまに出ることがあるが気にならないレベルにまで改善。【考 察】 側頭下顎関節に関係する不調全般が実質的に顎関節症と表現され、はっきりとした原因は知られていない。生活習慣や肉体的精神的ストレスなど様々な要因が絡み合って発症すると考えられている。 今回は、自転車事故と硬いものを噛んだ時の衝撃というどちらも外傷に起因して発症したケースである。このようなケースでは通常顎関節の構造的異常に注目されるが、外傷を起因とするケースにおいても明らかな顎関節の異常が認められない例も多々存在する。今回も医療機関による検査では明らかな異常はなく治療にはいたらなかった。 一般的には病気や健康を考えるにあたり、目で見て確認できる構造異常にばかり原因を求める傾向がある。もちろん構造的な問題を検査する事もとても大切である。そこから健康を取り戻す患者さまも多くいらっしゃる。 しかし、目で確認できる構造異常だけに原因があるとは限らない。目では確認できない機能的な問題や生体エネルギー的な問題もかなりの割合で存在する。 今回の症例においても、まずAMによる機能障害の改善から良い結果「左顎の痛み 顎関節症」症例報告3-Ⅴ 心身条件反射療法協会につながった。更に今回非常に顕著に効果があったと感じたのは2回目、5回目の「脳の学習記憶」(脳の可塑性)に対するアプローチだった。記憶は大きく「短期記憶」と「長期記憶」に分けられる。更に長期記憶は「非陳述記憶」と「陳述記憶」に分けられ、頭で覚える陳述記憶は「出来事記憶」と「意味記憶」に分類される。(図を参照) 2回目のセルフイメージ調整後の改善。更に5回目の「自転車事故で顎を痛めた」という出来事記憶と、事故で痛めその後の長年の経験から意味づけされた「カクッとするのは仕方ない」という思い込みのPCRT調整後の変化は著しいものだった。 特に患者さまの訴える「カクッという感覚や音」に関しては、既に長年にわたり抱え続けた問題であるため、構造的にも関節円板や靭帯などの変成や癒着などによる影響が多々考えられる状況。その中で構造的なアプローチなしの「学習記憶」による調整のみでここまでの改善が見られたことは、構造的な観点からだけでなく機能的エネルギー的な観点からも見ることが非常に大切であるという事を改めて考えさせられた症例であった。ライフカイロプラクティックセンター      心身条件反射療法士 国 島   勉図 PCRT研究会テキストより引用第44回ダイレクトテクニック仲井康二DC, CCSP 今回は環椎と後頭骨を併せてご紹介しようと思います。それはこの数年、後頭環椎関節と環椎軸椎関節は、自律神経との繋がりが深いような気がしているからです。 以前にも何回かご紹介してきましたが、私たちカイロプラクターが施している治療は、大きく2つの効果を上げていると思います。1つは一般的に考えられている筋骨格系の歪みを正すことで得られる効果です。つまり身体の歪みを正すことで、それが原因で生じている疼痛などの、諸々の症状を緩和することです。そしてもう1つは、バランスを崩していた自律神経の調整です。もちろん後頭環椎関節や環椎軸椎関節に限られたことではないのですが、骨盤周辺も含め、上部頚椎は、特に自律神経の1つである副交感神経との密接な関係があると考えています。今回は、その理由を少しずつ説明して行きます。 最初にオヤッと思ったのは、芸大の解剖学教授を務めておられた故・三木成夫 先生の本を読んでいた時のことです。それは古代の生物の脊髄には副交感神経だけが含まれていたという説です。それが生物が進化するに従い、生物の種類や数が増えたことや、大きさや環境の変化で、生物に「闘争と逃走」の必要性が起こり、闘ったり逃げたりする際に必要な、交感神経を脊髄の中央に発達させたと説明してありました。そして脊髄全体に位置していた副交感神経は、脊髄の上下に押し込められたと書いてあったのです。つまり副交感神経は上部頚椎や下部腰椎(骨盤)に押し込められたのです。 これで以前から悩み抱いていた「何故、カイロプラクティックは上部頚椎へこだわり、また骨盤にこだわるのだろう」という疑問と結び付いたのです。ひょっとしたらカイロプラクティックは、抑制されている副交感神経に刺激を与え、またはサブラクセーションを改善することで、自律神経のバランスを調整しているのではないだろうかと考えるようになりました。 特に上部頚椎には後頭下筋群があります。後頭骨から環椎、または軸椎への小さな筋群が存在します。単純に頚椎を伸展したいのであれば、上部僧帽筋でことが足ります。回旋や側屈、または屈曲なら胸鎖乳突筋や斜角筋群で十分な動きが行えます。 そこで後頭下筋群は、おそらく第一次呼吸システムによるポンプ機能を調整していると考えるようになりました。おそらく自律神経が第一次呼吸システムを調整しているに違いないと思います。 また90年後半に2年続けて来日されたAK(アプライド・キネシオロジー)のリサーチ・ディレクターでおられた故・ジョージ・グットハートDCの通訳をさせて頂いた自分は、セミナーの空き時間や、食事を共にさせて頂き、生涯で最も貴重な時間を過ごさせて頂きました。個人的な質問を色々とさせて頂き、一生忘れることの出来ない経験でした。その中で、グットハートDCは「カイロプラクティックは、結局は第一次呼吸システムの調整をしているんだよ。サブラクセーションをアジャストするのも、第一次呼吸システムのバランスを調整しているんだよ」と教えてくれました。この言葉が今でも頭から離れずに残っています。この言葉も、カイロプラクティックと自律神経との繋がりを結び付けるヒントになりました。 次は、新潟大学医学部の大学院教授をなさっておられる安保 徹 先生の本との出会いでした。安保先生は自律神経が身体に備わる免疫を調整していることを証明しています。交感神経が免疫を司る白血球の顆粒球を調整し、副交感神経がリンパ球を調整していることを、多くの研究で明らかにしています。 ある時、名古屋で臨床を続けている友人から、ある血液検査の結果を見せてもらいました。それは治療前と治療後(翌朝)の顆粒球とリンパ球のバランス(分画)を調べたものでした。正常であれば、顆粒球は55%前後、リンパ球が35%前後が理想だそうです。しかし交感神経が高まる起床時間の長さ、副交感神経が高まる就寝時間の短さ、リラックスする時間の短さなどで、多くの人は、交感神経がより優位になり、リンパ球を調整する副交感神経が抑制されています。実験台となった方も大学で教鞭を持つ方で、やはり治療前はリンパ球の割合が正常よりも低かったのです。しかし治療を受けた翌朝に計測すると10%以上もリンパ球の量が増えていたのです。これは通常では有り得ないことなのだそうで、当人も驚いていたそうです。やはりカイロプラクティックの治療は、自律神経に影響を与えていると確信したのです。名古屋の友人も、後頭環椎関節をアジャスト出来ますので、それが大きくリンパ球の数に影響を与えたと考えています。 皆さんは、治療中に患者さんが寝てしまった経験があると思います。今までの自分の経験では、多くは後頭環椎関節周辺の緊張を除いている時に寝てしまいます。これも抑制されていた副交感神経が優位になり、リラックスした状態になり、睡眠に導いているのだと思います。また治療後に尿意を感じる人達もいます。これも副交感神経が優位になったからだと思います。 このように、特に上部頚椎は副交感神経との繋がりがあると考えています。頭蓋仙骨治療テクニックでも、後頭下筋群を緩めるテクニックがあります。後頭下筋群の緊張または硬い筋線維を牽引しながら緩めて行くテクニックです。自分も必ず施すテクニックですが、うまく誘導すると、スーッと緊張が解放されます。もし緊張が緩まない場合は、それがサブラクセーションです。時には数カ所緩まない場合があります。その場所と方向を定めてアジャストすると、綺麗に矯正できます。つまり後頭環椎関節は複数のサブラクセーションが生じる可能性を秘めているのです。 アメリカ滞在中に、日本のオステオパシーの巨匠でおられる故・古賀 正秀 先生は後頭骨(後頭環椎関節)を数カ所アジャストすると聞きました。以来、後頭環椎関節を何カ所もアジャストできるようになることが、一つの大きなテーマになりました。コンタクトする場所や方向を考察しながら、やっと数カ所のアジャストが出来るようになったのは日本に帰国してからだったような気がしますが、正確には覚えていません。どうも脳は、嫌な辛い思い出は隠してしまうようです。完成にはほど遠いとは思いますが、少しは古賀先生に近づけたような気もしています。 後頭環椎関節に魅せられて、長い時間が過ぎました。技術面を含めてまだまだですが、この関節に隠された秘密を更に探ってみようと企んでいます。後頭環椎関節自律神経

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