カイロタイムズ118号
3/6

(3)2019年8月19日発行 カイロタイムズ 118号 今年(2019年)3月9日の朝日新聞朝刊に「母乳への過度な期待 見直し」「母乳によるアレルギー予防効果なし」「離乳食初期から卵黄 推奨」と大きくうたわれているのに目が留まりました。 これまで世の中が母乳大切、母乳大切、と言っていたのに、今度は別に母乳じゃなくて良いよ、というような見出し。「母乳を後押ししすぎて不安をかかえた母親が増えたから今度は母親に安心感を与えよう」という国の指針の変更。なんだか国に踊らされているようで、実際はどういうことなのだろうと検索したところ、記事の元になった厚生労働省の《「授乳・離乳の支援ガイド」改定に関する研究会》のウェブサイトにたどり着きました。(参照1) 感心したのは、研究会の議事録がきちんと残されていることです。第1回、第2回、という話し合いの過程を読むと、世界の研究動向や関わる専門家の皆さんのご意見、そしてどのような意図でこの結論に至ったかを垣間見ることができます。 「予防効果なし」という新聞見出しを目にして感じていた違和感が、第1回議事録を読んで解消しました。議事録には「母乳栄養が食物アレルギーを減らすという明確なエビデンスはない」と記されていたのです(第1回研究会資料4・p5)。皆さんは2つの言い方の何が違うの?と思われるかもしれません。しかし、元研究者の私にとっては大いに突っ込みたくなる違いなのです。 偶然にも支援ガイド発行と同月の3月21日に、世界的に有名な英科学誌であるNatureにこの言葉遣いの問題が取り上げられていました(参照2、日本語解説は参照3)。統計的に有意差なし、という研究成果を「効果なし」と解釈するのは統計の誤用である、という声明です。さらに、同じ傾向を示している実験が、ある論文では有意差ありとされ、別の論文では有意差なしとなるのはおかしなことではなく、統計の性質上、参照するデータのばらつきによって充分あり得ることだとも紹介しています。今回の例で言えば、完全母乳で育てた子供と育児ミルク併用で育てた子供のアレルギー発症率に有意差は見いだせなかった、という研究成果を「母乳にアレルギー予防効果なし」と発表するのは誤った解釈であり、2007年に出された授乳・離乳の支援ガイドで「母乳が乳幼児期のアレルギー疾患予防に一定の効果があるとの研究結果を紹介していた」(同新聞記事より)ことは、今回の発表で覆されたわけではないのです。 Nature誌の声明によれば、ある5つの学術誌に掲載された791の文献のうち51%が「有意差なし」を「効果なし」と誤って解釈していた、とのこと。科学者ですら混乱しているのですから、私たち一般人が混乱するなというのは無理な話です。しかし、世の中でもてはやされる「エビデンス」にはこのような誤りが氾濫していることを私たちも少しは知っておいたほうが良いのです。 例えば、カイロプラクティックの有効性はエビデンスに乏しいと言われても、目の前で毎日のように実感している大きな効果を過小評価する必要はありません。「手技」という世界は、どのテクニックを使うか、その習熟度、施術者の手の温度、柔らかさ、感覚の鋭敏さ、施術時間、頻度、オフィス環境、患者教育、施術者の心のあり方など、効果に影響を与える因子が多く、かつ「痛み」「疲れ」などの客観的評価が難しい事柄を扱っているため、「薬の効能」の研究に比べて統計結果にばらつきが出るのは当然です。調査対象を広げるほどばらつきが大きくなり、「有意差」は出にくくなります。臨床で効果があった、という個々のケーススタディはコントロール(対照)が存在しないので統計的エビデンスには使えません。カイロプラクティック業界としてはエビデ山﨑 美佳 DC「授乳・離乳の支援ガイド」の裏読み山﨑 美佳 DCンスを得る努力をするのは大切なことです。しかし臨床にいる私たちにとっては、統計的に有意かは参考でしかなく、目の前の一人一人に向きあって、その人にとって有意なサービスを提供することが最優先です。エビデンスの議論に一喜一憂することなく、エビデンスを強く主張する人がいたら、その主張の裏に統計の誤った解釈がないか探るくらいの余裕を持ちたいと思います。 新聞見出しに感じた違和感から話が脱線しましたが、支援ガイド改定で今後の子育て指導に大いに影響を与えるのは、母乳のアレルギー予防効果あるなしではなく、もう一つの見出し「離乳食初期から卵黄 推奨」ではないでしょうか。 新たに支援ガイドに追加された「アレルギーの原因となりやすい食べものは、離乳食初期から少しずつ食べさせるとアレルギー発症率が下がる可能性がある」という報告については、また次回。待ちきれない方はぜひ「議事録」をお読みください。 最後に、「予防効果なし」という見出しは新聞社がインパクトのために誤用したのではなく、授乳・離乳の支援ガイド最終版(2019年改訂版 p19)に「システマティックレビューでは予防効果はないと結論」と記載していることを付記します。根拠になった文献と思われる(明記なし)コクランレビュー「完全母乳哺育の至適期間」原文では「有意差なし」と報告してあり(参照4)、支援ガイド作成時の誤解釈と考えられます。参照1https://ww-w.mhlw.go.jp/st-f/shingi/other-ko-domo_129050_00001.html参照2Amrhein, V., Greenland, S., McShane, B. Nature 567:305-307, 2019参照3https://www.it-media.co.-jp/news/arti-cles/1903/26/news112.html参照4https://www.co-chraneli-brary.com/cdsr/-doi/10.1002/14651858.CD003517.pub2/full 今年に入りアメリカでは麻疹(はしか)が大流行となっており、日本でも麻疹の感染が拡大しているというニュースを見ました。このニュースを聞いて私は驚きを隠せませんでした。アメリカでは1966年から麻疹根絶のためにワクチン接種が始まり2000年に麻疹の撲滅宣言がなされ、2016年には疾病対策センター(CDC)がアメリカ大陸における麻疹のエンデミック伝染の根絶を発表していたからです。ワクチンのおかげで麻疹は根絶されたはずでした。しかし米厚生省は今年6月感染数が1001人になったと発表し、このまま流行が続けば「根絶国の地位」を失う恐れがあるとCDCは警告しています。 ここロサンゼルスがあるカリフォルニア州ではワクチン接種に関しては個人の自由が認められ、以前は様々な理由で子供達のワクチン接種を拒むことが出来ました。しかし2015年にパブリックスクール(公立校)に通う全ての生徒のワクチン接種が義務付けられたため公立校の子供達は全員ワクチンを受けています。しかしこの流行で地元の二つの有名なロサンゼルス大学では何百人もの学生と教員が麻疹感染の恐れありと自宅隔離を余儀なくされました。もしワクチンが機能するのであれば2015年からほぼ全ての学生達がすでに接種しているのですから、ウィルスが蔓延しようが麻疹にかからないはずです。ウィルスはアジアなどの第三国から持ち込まれたのだと説明する団体機関が多くいます。しかし同様にもしそうであってもワクチンが機能するのであれば問題ないはずです。この矛盾にほとんどの人々は気が付いていません。それどころかワクチン接種を推進する動きは高まっています。ワクチンは私達の免疫機構の作用を外部からの力で強制的に使います。副作用もありますし、作用も今回のエンデミックをみてもあまり効かないのは明らかです。私達カイロプラクティックも免疫機構の作用を促す効果を促進できます。自分達の体に本来備わっている自己治癒能力を最大限に引き出し、細菌やウイルス、病気などから身を守る免疫力を上げる手助けが出来る私達のカイロプラクティック治療がこの矛盾を解く鍵かもしれません。はしかとワクチン中島 一光DC猫背矯正コースを導入しよう!1,300円/税別URL https://e-pcc.jpもしくは検索⬅PCC治療家塾お問い合わせはこちらから2019年7月発売! 今日は最近質問の多いSNSの活用についてのワンポイントアドバイスをしたいと思う。 Facebook、Twitter、LINE@、ブログなど、これらは無料で社会へアプローチができるツールとして流行しているので使っている先生も多いと思う。「フェイスブックというのはどこに売っている本ですか?」と質問されたこともあるがそれは論外として、治療家でSNSをうまく使っている先生というのはあまり見かけない。むしろもったいない使い方をしている先生が多いと言える。 ワンポイントアドバイスのキモの部分をいきなり話してしまうと、SNSの効果的な使い方は何かと言えば「関係性作り」という一言に尽きる。以前はSNSでいきなり集客や販売をすることができていた時代もある。ところが今はそれがなかなか難しい。 もちろん不可能ではないのだが、実際に私もたまにチャレンジしてみると、集客数は以前と比べると1/10以下となっている。さらに複雑な細かい設定をそれぞれにしなければならないので、やはり難しくなっていると感じる。 さて、どうしたらよいのかというと、SNSの活用目的を「関係作り」と明確に絞ってしまうことだ。 あなたは誰かから物を買うときに、何者か分からない怪しげな人から買うのか、どんな人物かわかっている売り手から買うのか、どっちだろうか。答えは明らかに後者である。どれだけ素晴らしい考え方を持っていても、それだけ素晴らしい技術を持っていても、それは周りに住んでいるほとんどの人は知らない。 あなたがどんな人か分からなければ、周りから見れば「何者か分からない怪しげな人」と何ら変わりはない。でもあなたがどんな人物で、どんな得意分野があって、どんな実績を持っているのか、そういったことをSNSで情報開示していたとしたら、周りの多くの人があなたのことを知っていることになる。総務省の発表によると現代は10年前と比べて529倍の情報量にアクセスできるようになっている。これだけたくさんの情報があるのだから、ただ待っているだけではあなたの情報は間違いなく同業者の情報に埋もれてしまうだろう。そこを積極的に開示してSNSで発信していってみよう。そこからすぐに来院には結びつかないかもしれないが、数カ月もすれば効いてくる。 発信した後に集客へと繋げていく仕組みが必要になるが、それはまた別の機会にお話しよう。まずはSNSを使って情報開示をしていってみてほしい。SNSの効果的な使い方とは…vol.23vol.23井元 雄一Ph.D

元のページ  ../index.html#3

このブックを見る