カイロタイムズ117号(高解像度)
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(3)2019年5月20日発行 カイロタイムズ 117号 「小児カイロについて勉強したいです」と問い合わせをいただくことが度々あります。そして毎回返答に困ります。私は小児カイロについて、米国カイロプラクティック大学の講義(DCプログラム)と国際小児カイロプラクティック協会の200時間の認定プログラムで学びました。 小児カイロ教育は約4年間かけて学ぶDCプログラムの知識と技術が基盤となっています。解剖生理学、レントゲン診断学、カイロ哲学などの知識、整形外科学的検査、神経学的検査、視診・触診技術、そして的確で安全なアジャストメント技術が必須です。さらに妊娠出産に関する知識、胎児・小児の発育発達に関する知識に加え、なぜ小児にカイロプラクティックが必要なのか、どう小児を診るのか、骨格的にも神経生理的にも発達途上である小児に適した安全な技術は何か、という臨床理論や技術を深めることで小児カイロ教育は成り立っています。 これまで、基盤となるカイロプラクティック教育が一律でない日本では、小児カイロを正しく伝えるのは難しい、と考えてきました。しかし日本で開業して3年、たくさんの親子にご来院いただくうちに、小児専門ではない施術家でも子供たちのためにできることは多いのではないか、と感じ始めています。 それは「観察」です。 産後の骨盤矯正など、お子さん連れで来院されるお母さんがどのように赤ちゃんを抱っこしているか、あやしているか、どんな気持ちで赤ちゃんに接しているか。赤ちゃんがどんな様子か、活発か、緊張していないか、身体の使い方やおっぱいの飲み方に左右差がないか。よく観察して一言アドバイスするだけで、赤ちゃんの身体の動きやリラックス度が驚くほど変わることが度々あります。赤ちゃんに注目するのは、脳と身体の発育発達が著しい最も大切な時期だからです。 抱っこの時に赤ちゃんの背中がゆるく丸くなって、脚がM字型開脚になっているのが理想的とされますが(注1)、脚が両方ピンと伸びてしまっている赤ちゃんも多く来院されます。抱き方をアドバイスしたり、抱っこ紐を工夫すると(注2)、お母さんの肩こり腰痛予防になるだけでなく、赤ちゃんの背中の緊張がとれ、脚は自然とM字型開脚になります。また、お母さんの施術中、片方の手や足ばかり動かしている赤ちゃんが目に留まると、私は「お子さんの両手や両脚を左右交互にプッシュして遊んであげてください。ただし関節が未完成なので力で押さないように」とアドバイスします。数日後には見違えるように左右差がなくなり、「すごく活発になりました」と喜ばれます。 一心不乱に子育てをしているお母さんの心身の健康に注目することも大切です。今は頼れる人が周りにいないのに情報はあふれている時代。たくさんの情報をどうやって選べば良いかわからず、お母さんの育児不安による緊張が赤ちゃんの身体の緊張につながっていることがよくあります。先日、産後の骨盤矯正で通院されている方が、再検査時のアンケートに「先生に子供の身体をみてもらって心強かった。他に子供とふれあってくださる方がいるのはありがたく感じた」と書いてくださいました。改めて、お母さんたち(そして育児休暇中のお父さんたち)の話を聞き、不安を和らげることが小児カイロの第一歩だと感じました。 小児、大人にかかわらず、カイロプラクティックアジャストメントは脳と身体の神経伝達を向上させ、身体に本来備わっている機能が最大限発揮されるよう促します。それは赤ちゃんにとっては、身体がリラックスして左右差なく活発に動ける状態です。専門的な知識と技術に山﨑 美佳 DC小児カイロは「観察」から山﨑 美佳 DC基づいた背骨へのアプローチは極めて効果的で、小児カイロによる劇的な変化を実感することはありますが、実は、お母さんの心身の辛さを緩和したり、赤ちゃんが心地よく抱っこされたりおっぱいを飲めるようアドバイスするだけで、便秘や夜泣きの緩和や股関節脱臼予防、スムーズなずりばいやハイハイへの移行などのサポートができるのです。 赤ちゃんや小児を診るのは無理だと思われていた方も、ぜひアンテナを光らせてお母さん方とお話しし、家での育児の様子を聞き、一緒に来院されていたら赤ちゃんの動きを観察し、子供たちのすこやかな成長発達のサポーターになっていただけたら嬉しいです。注1)M字型開脚(左図)については日本小児整形外科学会の「先天性股関節脱臼予防パンフレット」参照。ネットからダウンロードできます。注2)抱っこ紐のより良い使い方。肩ひもは肩の両端ではなく首のつけ根近くに、胸ストラップは首のつけ根ではなく脇の下の位置まで下げて短く絞り、肩ひもが肩の端に滑らないように固定する。赤ちゃんにとって好ましい姿勢はM字型開脚 アメリカにはオプタムヘルスという大きな健康保険会社があります。そこの臨床プログラム副部長のデビット・エルトンDCが国立科学アカデミー医学学会で「疼痛管理における非薬物的アプローチの役割」と題し、腰痛などに対するカイロプラクティックや他の保存療法の多大な有効性と費用削減について発表しました。 1億2千5百万人もの顧客に影響を及ぼすであろう今後2年間の彼の展望は、患者たちはまずカイロプラクティック、鍼灸、物理療法から治療を始めるべきだというものでした。自社での費用計算では1回のエピソードにかかる平均費用はカイロプラクティック、鍼灸、物理療法から始めた場合は約6万2千円、主治医から治療を始めた場合は7万3千円、専門医から始めた場合は17万3千円。現時点ではまだDC、鍼灸、物理療法を最初に訪れるのは30%、専門医は40%、主治医は30%ということです。オプタムへルスのゴールは2年間でカイロプラクティックや保存療法への患者を30%から50%強にすることです。そうなると1年で約230億円もの費用削減が望めるとのことなのです。 また世界各国の医師に絶大な信頼を受け、最も評価の高い医学雑誌「ランセット」に最近、世界規模で行われた腰痛予防と治療についての論文が発表されました。この30年でガイドラインは大きく変わり、最も強調され始めたのは薬物投与と外科的治療からの脱却です。最初の治療はエクササイズ、マニュピレーション、鍼灸、物理療法が適切で最後に薬物投与と外科的治療が推薦されています。 このような新しい見解は最近よく耳にしますし、大きな保険会社がカイロプラクティックなどの費用効果の高さを認識し始めたことは喜ばしいことですが、まだまだ多くの患者は投薬やステロイド投与、手術などを主とするMDを腰痛で訪れるのが現実です。数々の論文から費用効果でも治療効果でも、カイロプラクティックが腰痛治療に対して優れていることは事実です。あとは私たちがこれをどう人々に伝えていくかです。50%といわず「腰痛になったらまず100%カイロプラクティックへ」という時代が来るのを夢見ています。非薬物治療への方向転換へ中島 一光DC管に対しては、軽擦法(エフラージ)を顔面頭部、四肢に施し、胸郭入口を揃えて、横隔膜をドーム化して、肋骨挙上を施します。それにより、体幹部(主に呼吸筋)を緩め、咳などで呼気に傾いた肋骨をフリーにして、傍脊柱筋の位置にある交感神経連鎖に働きかけ、昂ったインパルスを調整します。もちろん、オステオパシーでは、手技による治療を対症療法に加えて施すものであり、患者さんの痛みや辛さを少しでも早く軽快に導くことを目的とするものです。 現代西洋医学に対抗するのではなく、補うように全体医学が存在する。主体はあくまでも患者自身であることが、医療に携わる者の考えとして何よりも不可欠だということを忘れてはなりません。 今年もインフルエンザは猛威をふるい、あちらこちらの学校が学級閉鎖を余儀なくされたそうです。今回はインフルエンザや風邪の治療方法などを中心に話を続けていこうと思います。 風邪をひくと咳、くしゃみ、鼻水、咽頭痛、発熱などが症状として現れますが、一般的にどれか一つの症状が強くあらわれてきます。医療機関で受診をすると、咳・くしゃみ―咳止め、鼻水―鼻水止め、咽頭痛―痛み止め、発熱―解熱剤などの薬が処方されますが、これらの薬効は風邪の諸症状を抑えるだけで、風邪本来を治すものではありません。 元々現代の西洋医学はAllopathic医学であり、対症医学としての治療です。例えば鼻水や咳とは気道に侵入した病原菌やウイルスを体外に出す現象(症状)ですが、薬はその現象(症状)を抑えることが役割になります。発熱についても38・5℃程度の熱が出るのは、平熱時に比べ白血球の免疫作用が効率よく働くためです。それを「しんどいから」と安易に解熱剤を使い、熱を下げるのもどうかと思います。41℃までの発熱は人体において大丈夫という研究報告もあります。抗生物質も黄色ブドウ球菌のような細菌には効果があってもウイルスには効きません。 Allopathic医学である現代西洋医学に対して、全体医学Holistic医学で患者の治療に当たるOsteopathic Medicineではどうするのか。まず、リンパの流れを良くして免疫の機能を高めます。リンパ管は下水溝のようなもので、各細胞で排出された老廃物を集めて捨てる役割を持ちますが、薄い単層のカベで覆われているため流れが悪くうっ滞が起き易い箇所でもあります。 皮膚の表層を流れるリンパ風邪・インフルエンザ②ONPO法人アトラス・オステオパシー学院

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