カイロタイムズ115号(高解像度)
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(3)2018年11月19日発行 カイロタイムズ 115号 本セミナーが開講した2007年ごろと言えば、カイロプラクティックの専門教育はまだ発展途上とも言える時期だった。骨はそれ単体で位置がズレたり動いたりすることはなく、軟部組織と呼ばれる筋肉や腱が作用して初めて骨が動く。この重要性を世に訴えようにも当時の日本にはそのレベルの専門教育はまだ導入されていなかったため、海外から講師を招き本場の筋生理学を学ぶ機会を設けたのが始まりである。以降、本セミナーでは毎年世の中のニーズに合ったテーマを設定し、米国ウェスタン・ステーツ大学からその道のエキスパートを講師として招聘している。過去にはショーン・へリンB.A. DC CCSP®、クレイグ・K・カワオカDC, DACBSP, CSCS、ウェスタン・ステーツ大学学務担当副学長、CAO、教授(開催当時)のエバンスDC,Ph-D,MCHES,CWPといった錚々たる講師陣が登壇。東京オリンピックが迫る近年は、同大学学長からの特別な推薦を受けスポーツ医学分野が専門の川口氏が派遣され、4回目の登壇となった。通訳なしでダイレクトに学べる機会は非常に貴重だ。 今回のテーマは『学校での体育やアマチュアスポーツ等の比較的軽度な運動に起因する障害と日常生活への影響の改善のための講義と対処法』。一般的なニーズがあるテニス肘・ゴルフ肘・四十肩・足底筋膜炎・外反母趾などについて、上肢と下肢を2日間に分けて講義と実技で学ぶスタイルだ。どんな症状に対して何をやるのか。なぜそれをやるのか。分かりやすくシンプルな解説に川口氏独特の語り口も手伝って、会場は終始和やかな雰囲気に包まれた。モデルを使った川口氏の実演時は、手元の動作をライブ映像で大画面に投影。どの席からでも見やすいように工夫が凝らされた。1日目の夜には懇親会が催され、各地から集まった受講者同士が親睦を深めるよい機会に。習熟度のチェックや経営講座も行われ、受講者にとって充実した2日間となった。本セミナーは2017年より、JFCP会員外でも申込み可能なオープンセミナーに形を変え、業界全体の知識レベルを底上げし「外を知るための機会」を広く一般に提供している。まだ会員外の受講は多くないが、今後さらなる浸透が期待される。 今回の「比較的軽度な運動による障害」というテーマ設定に、JFCPが今後目指す姿が垣間見える。重度の障害は医療レベルの対応が必要だ専門的な学びの機会を提供予防」に本気で取り組む第11回JFCP国際セミナー開催 2018年8月6日(月)〜7日(火)の2日間、岡山県倉敷市の倉敷労働会館にて「第11回JFCP国際セミナー」が開催された。主催は全国姿勢調整師会・日本カイロプラクティック協同組合連合会(以下、JFCP)。米国オレゴン州ポートランドにあるウェスタン・ステーツ大学スポーツ医学学科修士課程助教の川口潤氏(DC,ATC)を講師に迎えた。本場アメリカの大学で教鞭を執る現役の助教から、スポーツ科学先進国の最新事情を含めて直接学べる機会となった。が、そこには至らない、体育の授業やクラブ活動で起こるちょっとした捻挫などは、日本ではそのまま放置されることが多い。子供達を取り巻く日常生活やアマチュアスポーツの場で、自分で治せるかどうかは別として「このケースにはこの対応が必要だ」と判断できる知識を持った教師やコーチが増えれば、小さな不調の長期化・慢性化の予防につながると考えている。超高齢化社会を迎えた日本で、もはやロコモティブシンドロームのような症状を病気だと捉えている場合ではない。積極的な予防への取り組みが必要不可欠なのだ。 「未病」という言葉は少しずつ世に浸透してきたが、明らかなケガの一歩手前、いわば「未ケガ」の状態はまだ認識されているとは言い難い。しかし「未ケガ」をそのまま放置したことが、歳を重ねてから現れる関節の不調や歩行困難の原因になる可能性は高い。人の身体は0.0何ミリというわずかな関節の可動域の障害で不具合が起きる。その認識が拡がれば、カイロプラクティックや姿勢調整の社会的な必要性の向上にもつながる。適切な知識を持った人材を養成し、子供の成長段階から小さな予防を積み重ねる意義は大きい。JFCPは、今後このような活動に取り組むことも検討している。 セミナー終了後、講師を務めた川口潤氏に、本セミナーに登壇した感想と受講者に「伝えたかったこと」についてお話を伺った。世界の潮流は本人主体編集部:川口先生が本セミナーに登壇されるのは今回で4回目となりますが、受講者の反応などを含め印象をお聞かせください。川口氏:本セミナー受講者は学ぼうとする熱意が非常に強いと、最初に登壇した時から感じていました。毎日普通に授業がある学生と違い、今ここで覚えないと次はいつ学ぶ機会が来るか分かりません。「この1回」に賭ける真剣度が高いのだと思います。本セミナーには10年連続で参加されている方もいると聞いていますし、本当に熱心な受講者が多い。ご年配の方であっても新しいことを始め、真剣に学ぼうとされる姿勢は素晴らしいと思います。編集部:今回は30名近くの方が初参加で、会場はとても活気に溢れていると感じました。川口先生は海外を拠点に活動されていますが、海外のスポーツ医学やカイロプラクティックをはじめとする手技療法を取り巻く環境で、何か大きな流れや変化はありますか?川口氏:そうですね。手技という面では、米国ではここ5年ほどで足の重要性が注目されています。足、足首から始まり、膝、股関節、腰など全てのつながりを診るべきだ、という傾向が大きくなってきたと思います。施術者や医者など「誰かに治してもらう」という意識から、リハビリ的な要素を含め「患者本人にやってもらう」スタイルに移行していると感じます。本人主体ですね。身体のコアを鍛えるとか可動域を拡げるとか、自分でできることは教えて、患者本人が治療に参加するんです。いずれ日本もそうなる可能性が高いと思います。「自分で考える力」を編集部:今回の講義で「医学に答えはない。人生に答えはない。自分で考える部分が多い。」というお話がありました。このようなセミナーの場で、受講者にはどんなことを学んでほしいとお考えですか?川口氏:私はふだん教える立場ですがセミナーを受講することもあります。その前提でお話ししますと、全てを鵜呑みにしないほうがいいと思いますね(笑)。そのセミナーのコンセプトを把握する程度に留めておくんです。どんなに素晴らしい先生やその道のエキスパートが教えてくれることでも、客観的な事実以外に、その人の見解・見識が含まれています。最初は鵜呑みでも、果たして自分には先生がやっている一つ一つの動作と同じことができる力量があるのか、冷静に考えなくてはいけない。見よう見真似ができることよりも、先生がやっていることのコンセプトを理解することの方が大事なんです。私の講義の中で「適当に考えてください」と言うことが度々ありますが、「考える」とはそこなんです。施術時の角度などを事細かに数字で説明することもできますが、そもそも人の身体は個体差があって感覚も違う。その技術がどんなものか、今ここで修得すべきことは何かを体系的に理解する方が大切な場合もあると思うんです。そう考えられれば別の場面で応用もできる。だからまずはコンセプトを学んでほしいなと思っています。編集部:なるほど、おっしゃる通りです。受講者は自分のお金を使い、時間を使い、労力を使い、自分のお客様を待たせて参加しているわけですから、今後に生かせる形で学び取って帰らなければなりませんね。「自分で考える力」は、センスとか察知力と言い換えられる気がするのですが、これらを養うコツがあるとすればどんなアドバイスをいただけますか?川口氏:疑問から入ることだと思います。言い方は良くありませんが疑うこと。言われたことはすぐ忘れますが、自分で考えたことや調べたことはなかなか忘れないものです。極端な例え話ですが、他人の子どもの名前って、自分で考えたわけじゃないから何度聞いてもすぐ忘れませんか?(笑)「それ本当かな?」と抱いた疑問を調べていくうちに理由が分かり、反対意見があることを知れば両方とも忘れません。特に技術は、それを使って初めて自分に染み込んで腑に落ちます。これは自戒の意味も込めてですが、常に疑問を抱き失敗を恐れずに進むことが、自分で考える力や察知力を養うコツになると思います。編集部:日本とアメリカ、二つの国で教えるというお立場で何か違いを感じることはありますか?川口氏:「1+1=2である」という考え方は、ある意味とても日本的です。カッチリ、きっちりしている。それに対して「1+1=2、とは限らない」という考え方を、一つの答えとしてスッと受け容れられるのがアメリカなのかもしれません。あまり偉そうなことを言える立場ではありませんが、医学では80%はあやふやで白黒ハッキリしていることは20%くらいです。これが腑に落ちない日本人がけっこう多い。先生という存在に分からないことはないと思っているんです。セカンドオピニオンという考え方は日本でも最近やっと浸透してきましたが、アメリカではセカンドどころか第3、第4もよくあります。5人も6人も医師を回って自分が納得したら手術をするのが当たり前です。その方が施術者にとっても患者にとっても、最終的にお互いが良い環境なのだと思います。編集部:自分主体という潮流は、いずれ日本でもそうなって行くかもしれないですね。さまざまな立場・場面で、自分で考える力を養う必要があるということがよく分かりました。ありがとうございました。セミナーで賑わう会場左:川口DC、右:編集部実践的に使えるテクニック講義

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