カイロタイムズ115号(高解像度)
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(1)2018年11月19日発行 カイロタイムズ 115号テーマと目的 今回のテーマは「手技療法の可能性」。施術の需要が増加する一方で、トラブルも散見される日本の手技療法業界において、科学的根拠に裏打ちされた国際基準に基づく手技療法の方向性を提示し、その可能性と理解を深めることが目的だ。手技療法者や医療関係者、一般の方々、未来を担う学生に向けて、正しい知識や今後の在り方を発信する場としての機能も期待される。 初日は和洋楽器混成グループ「ネオジャパネスク」によるスピード感溢れる演奏パフォーマンスで開幕した。開会式には地元選出の国会議員、県会議員が出席。その他国会議員、県議会議員、業界団体、海外の有力支援者からの祝電も多数披露され、オープニングに華を添えた。16の研究発表と  充実の特別講演 本大会では「変形性膝関節症10例に対するカイロプラクティックケアの検討」、「日本の腰痛患者の補完的な代替医療治療用途の調査研究」など国内外含め16の調査研究・症例の発表が行われた。スポーツ実施時に関連する研究を集めたセッションや、手技療法を利用する際の意識に着目した調査研究も注目を集めた。 特別講演では、倉敷芸術科学大学 生命科学部 健康科学科 教授 大川元久氏(MD,PhD)が登壇。「脳神経外科医からみた手技療法の一例」と題した講演が行われた。大川氏自身が脊椎症を発症し、神経外科的手術から、あらゆる民間療法を経てカイロプラクティックに出会い、症状が解消するまでの経緯をCT・MRI画像とともに紹介。私見ながら、脳外科医・救急医ならではの考察とカイロプラクティックに内在する可能性が語られた。 大会1日目の最後には、韓瑞大学校カイロプラクティック学部長 教授 HanSuk Jung氏(DC,PhD,CCSP,FCBP)による「アジアにおけるカイロプラクティック教育の現状と今後の役割」の講演が行われた。ショートフィルムを用い、今私たち自身がアジアのカイロプラクティックの歴史を紡いでいるということ、「和(Harmony)」の大切さを力強く呼びかけた。 大会2日目の安全講話では、倉敷芸術科学大学生命科学部 生命科学科 准教授 山﨑功晴氏が登壇。「医療職を意識した医療倫理学とは」について講演した。医療職の心構えや取り組みを知ることは、手技療法が医療類似行為であるという自覚を持つための第一歩につながる。非常に意義深い講義となったことは間違いない。EXPOと   市民公開講座 別室では2日間通してEXPOが開催され、症例・研究のポスター発表に多くの受講生が足を止めた。10の企業がさまざまな分野の情報・新製品を展示。姿勢の悪さに派生する体の不調を軽減させるハンモックピロー体験、気になる症状を自分でメンテナンスする健康グッズの紹介などが行われた。 大会2日目に開講された市民公開講座では「健康長寿と姿勢」をテーマに、首都大学東京 名誉教授 星旦二氏(MD,PhD)が講師として登壇。本当の健康長寿とは何か、健康に関する誤った常識を分かりやすく軽妙に解説。一般社団法人KCS代表 桑 2018年10月20日〜21日の2日間、岡山県倉敷市の倉敷芸術科学大学にて「第8回世界手技療法会議」が開催された。本大会は東アジアの手技療法教育をリードする韓国の韓瑞(HANSEO)大学校の発起で2011年から開催されている国際会議で、日本での学術大会は初開催。手技療法の学術大会が国内の医療・芸術系大学で開催され、日本の手技療法を取り巻く環境と今後の可能性について医療関係者の見解を聞く貴重な場となった。岡俊文氏(PhD)による姿勢調整の実演も行われ、地元の一般受講生で講座は満席となった。世界の常識は   日本の非常識 前出の星氏は「代替・統合医療と新しい健康づくり」と題し基調講演を行った。星氏の研究テーマである健康長寿は、「NNK(ねんねんころり)からPPK(ぴんぴんころり)へ」のフレーズがNHKでも大きく取り上げられている注目分野だ。星氏が提唱する根本予防=ゼロ次予防とは、例えば「タバコを吸わないことが肺がんの予防ではなく、国がタバコの自動販売機を全て撤去すること」を指す。今や「医療は代替医療と上手にコラボすること」が世界の常識だが、日本では非常識と捉えられている。この残念な現状を打破するために必要なことが熱く語られた。手技療法の可能性 本大会の最後には、今回のテーマである「手技療法の可能性」についてディスカッションが行われた。「玉石混交」「発展途上」と表現される日本の手技療法界は、多くの課題を抱えている。中でも他業界との関係性や見解の相違は、あらゆる面で大きな壁。課題解決の一助となるよう、手技療法の専門家だけでなく医師であり医療者を育てる大学で教鞭を執る先生方を交え、海外で手技療法が社会に認知された経緯や、手技療法が今後の日本にもたらすであろうメリット・可能性について見解を共有する場を設けた。パネラー:中垣光市(DC,CCSP)第8回世界手技療法会議大会長開会挨拶 中垣光市大会長熱心に聞き入る参加者手技療法の可能性を探る第8回世界手技療法会議 開催星旦二(MD,PhD)首都大学東京 名誉教授大川元久(MD,PhD)倉敷芸術科学大学 生命科学部健康科学科 教授HanSukJung(DC,PhD,CCSP,FCBP)韓端大学校カイロプラクティック学部長 教授井内隆詞(PhD)大阪観光大学姿勢科学ディプロマコース 代表(以下、肩書省略)A1(大川)最も重要なのは医療経済効果。日本の医療保険制度は素晴らしいが、かえって足枷になっているかも。実際の値段を知らず安易に手術や医療を受ける傾向がある。高ければ受けない。代替医療が認知されれば社会を変えて行けるのではないか。(星)医療経済効果については同感。生活の質を高める可能性もある。日本の医療費は介護保険と合わせ少なくとも53兆円。治療には使われるが予防には全く使われない。治療ではなく根本的に予防から始められるようになる。A2(大川)重要なのは誤解が多いこと。医者が病気を治しているのではなく自然治癒で自分が勝手に治っているのだが、それを医者に受け入れさせるのは難しい。見方の違い、感覚の違いが誤解を生んでいる。世の中が変われば見方も変わる。世間一般の人の誤解を解くことも大切。(星)患者との信頼関係をどう構築するかが一番重要。エンドユーザーの心配をベースに、科学的なエビデンスを集め蓄積する。できれば医者とか専門家だけではなく患者も参画する開かれた学会を行い、体験してもらうことが一番の理解になる。(中垣)群雄割拠の状態が続いているが、特にDCはどの大学を出たから偉いということはない。業界トップこそ仮想現実を捨て、学閥の壁を取り去ってハーモニーをもう一度築き合うべき。A3(チュン)アジアではタイと香港2か国が法制化されている。タイでは要人のカイロプラクティック治療中の事故で死者が出た。これを機に政府が動き法制化が進んだ。一番大切なのは消費者の安全性。しっかりした安全性の基準をもって政府と交渉することだ。A4(井内)大学教育はカリキュラムが明確。文科省等のチェックがあるので高いレベルを保つことができ、安全性につながる。学ぶ側の安心感も得られる。A5(大川)大学は教育と研究をする場所。本大会で発表された研究はすばらしいが詰めが甘い。結果を考察し結論付ける部分に飛躍がある。しっかり研究するという意味で大学は絶対に必要。(星)学問は批判の連続、批判は改善のプロセス。大事なのはエンドユーザーと手を結ぶこと。患者や市民から学び、コツコツとケースレポートを積み上げ丁寧に蓄積する作業が学問。それをみんなでやっていけば活路が開けるのではないか。結果として市民や患者のためになれば最高。(大川)エビデンスは必要。基準をしっかり学び、その土台の上で個性をもって自分自身のパフォーマンスを展開できるようになってほしい。重要なのは安全性。ルールを破るのではなく基準をしっかり把握した上で。(中垣)カイロプラクティックという職業がどんなに素晴らしく楽しいことか、若い人たちに理解してもらいたい。私は極めて早い段階で奇跡を見て中毒になった。多くの奇跡を経験しましょう。A6(中垣)現在のカイロプラクティック法制化の動きは、他の組織や著名なDCにも明らかに分かっているはずだが見えていないのかもしれない。もし見えていないのだとすれば、我々の努力を目の見えない人たちにも見えるように光りましょう。(大川)過大な表現をせず、謙虚に、自分がやっている施術を信じて続けてほしい。(井内)できる、できないは自分が決めるのではなく、国民が、基準が決めてくれる。一般の方々に選ばれる存在にならなければ。その上で広げていきたいと思う。(チュン)一つの基準を求めていくことがハーモニーにつながると思う。(星)私は考えることは大きいけれどできることは小さい。しかし小さいことでも蓄積すれば必ず大きな改善、仕組みや制度を変えることにつながる。国が悪いとは全く思っていない。国民主権、主権は我々にあることを忘れずに。プライドの貫きどころ 日本で手技療法の施術をする以上、世界がどうこうではなくまず「日本での」誤解を解かなくてはならない。誤解を誤解のままにしておいて良いわけがないし解けない誤解はいつか事実と見なされてしまうだろう。一般社会、行政、医学界、被術者、まとまらない業界内。誤解を解くべき相手はたくさんいる。自分たちの持論を、伝わらない言葉で何度発信しても意味はない。 「なんで?ボーっと生きてんじゃねえよ!」本大会でも話題となった某テレビ番組のキャラクターが放つこの決め台詞を、笑って聴いている場合ではない。医学界は日々研究を重ねて学問を究め、リラクゼーション業界は躊躇なくお客様の声を聞き改善に努めている。手技療法業界はどうするのか?対等な土俵にすらまだ立てない理由が透けて見える。プライドの貫きどころを誤ってはいけない。内輪もめしている時間など、どこにもないのだ。 本大会でパネラーから贈られた熱いメッセージに、会場は大きな熱い拍手に包まれた。このメッセージを受け取った手技療法に携わる一人一人が、今この瞬間から動き始めることを期待したい。日本で手技療法が確立された際に期待できる社会的メリットは?Q1同じく発展途上のアジアで、社会的地位を確立した国はどのような手法をとったのか?Q3仮に手技療法が大学教育として確立すれば、医療職からの誤解は解消しやすくなるか?Q5安全と教育は切り離せない要素。姿勢科学を大学教育にしている理由は?Q4手技療法を確立するために日本でやるべきことは?Q2今後の手技療法業界と参加者へメッセージを。Q6NO. 115 号発行日/2018年11月19日発 行/日本医科学出販株式会社〒160-0023東京都新宿区西新宿3-1-5新宿嘉泉ビル8F TEL:0120-223-505 FAX:0120-223-509Eメール:info@chiro-times.co.jp2月・5月・8月・11月発行

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