カイロタイムズ105
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(5)2016年5月16日発行 カイロタイムズ 105号 今回は胃酸について少し変わった切り口からの説明です。pH(酸性アルカリ性)のスケールは水素の量で決定されることはご存知だと思います。世間でいうところのアルカリイオン水は水素イオンの量が多い水のことです。 水素の量が増えるとpHはアルカリ性に傾向してしまうため、食後3時間はアルカリ性に傾向することは望ましい環境ではありません。一方で、胃酸が生産分泌されるときに、カリウムとともに必ず必要になるのも水素(イオン)です。 私たちの体は、アルカリ性(7.365以上)自体を維持するための自然なメカニズムを有しています。食べ物を消化し、細菌やウイルスを殺菌するためには、私たちの胃の内部は3.0〜4.0の酸性に維持されます。私たちは食べ物を食べ、水、特にアルカリ性の水(水素水)を飲むときに胃の内部のpH値が上がりアルカリ性に傾向します。 このとき胃の中ではフィードバック機構のスイッチが入り、胃の内部のpHを3.0〜4.0に戻すために、pH2.0〜3.0の強酸性の塩酸を生産分泌し、胃内部のpHの平衡を維持しようとします。 つまり、アルカリイオン水(水素水)を飲むことは、ある意味では逆説的に胃酸の生産を増加させ、胃内部のpHを最適な食物分解濃度を維持するためのメリットはあるといえます。ただし、元来胃酸分泌能力が低い状態だったり、常時大量のアルカリイオン水を飲むことはかえってpHそのものを慢性的にアルカリ性に傾向させてしまう可能性がありますので注意が必要です。 元々、胃酸の分泌が少ない低胃酸の傾向にある人で、肉や魚を食べると胃がもたれるような人の場合には、上記のような胃酸のpHの仕組みを利用して、食事が始まってすぐにアルカリ性水を少しだけ飲むことで、アルカリ性水が呼び水のような役割をして、pHの低い胃酸の分泌を促進してくれることがあります。 逆に、ストレス性胃炎や胃潰瘍の初期症状のある人にとって、胃酸は避けなければならないものとして刷り込まれているため、ネットなどで「ストレスで胃が痛くなったり、胃潰瘍の経験のある人にはアルカリ性水が最適な飲み物」という紹介記事をたまに見かけますが、前述のようにアルカリ性水は場合によってはpHを下げるための呼び水になるので、使用には十分注意が必要です。 胃酸についてもう一つトピックをご紹介しておきます。 通常消化分解を終えて十二指腸に送られる時に、強酸性のままでは十二指腸に穴をあ胃酸についてけてしまうことになります。この問題を回避するために、膵臓が膵液と呼ばれるアルカリ性ジュースを作ります。このジュースは炭酸水素ナトリウム(重曹)であり、ドロドロに溶けた酸性食物が胃から出る前に混合され、pH5.5前後に希釈をしてくれます。膵臓が炭酸水素ナトリウムを作るため、食後に出るげっぷの正体の多くは、食事と一緒に飲み込む空気ではなく、この重曹が酸と巡り合って反応してつくられた炭酸ガスでもあります。映像の世界から カイロプラクティックへ はじめまして。米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック(DC)の藤原邦康です。私は、現在、一般社団法人日本整顎協会の代表理事を務めています。普段は、世田谷区にカイロプラクティック・オフィスを構え、アゴの悩みを抱える患者さんの相談に応える、顎関節専門ドクターとして臨床の現場に立っています。 これからの連載にあたって、今回は簡単な自己紹介をさせて頂きます。実は私は、医学とはまったく畑違いの映像関係の仕事をしていました。もともと、S.スピルバーグやG.ルーカスなどの特撮映画の全盛期に育ち、映画監督にあこがれる高校生でした。高校卒業後、米国留学。カリフォルニア州立大学(映画専攻)を卒業し、帰国。この頃、フルコンピューター・グラフィック(CG)映画、『トイ・ストーリー』が公開されました。もう20年も前になりますが、今まで見たこともなかったCG映像の衝撃は忘れられません。CGの将来性に期待を寄せ、ワクワクしました。「これからは、英語も関係なく映画製作ができる時代だ!」と、期待に胸を躍らせながら、CM制作会社のCG制作部門で仕事を始めたことを懐かしく思い出します。 その後、CGプロデューサーを務めながら、特撮映画やCM制作にも数多く携わりました。同時にいくつものプロジェクトを抱えていましたから、業務は過密を極め、徹夜仕事も当たり前。3週間、会社に寝泊りしたこともありました。不規則なスケジュールに加えて、並べた椅子や床の上で仮眠を取るような生活を繰り返すうち、ついに、まともに動けないほどのひどい腰痛を発症しました。 その時に出会ったのが、都内で開業していた日本人DCの先生でした。先生に診て頂き、幸い、腰痛は何事もなかったようになくなりました。この時、カイロプラクティックの効果に感銘を受けたことはもちろん、骨格や解剖学について非常に興味を持ちました。CG業界でも骨格を基に人間の動きを再現しますから、もともと素養は養われていたのでしょう。また、「モックアップ」といって、粘土でCGモデリングの造形作りをすることもありますから、「手仕事」「職人仕事」という点でも、「へぇー、なかなか面白そうな仕事だな…。」と強い印象が残りました。 その後もCGプロデュースの仕事は続けましたが、30歳になるとき、私は転機を迎えることとなります。(次号に続く)米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック一般社団法人日本整顎協会代表1970年静岡県浜松市生まれ。カリフォルニア州立大学(映画専攻)卒業後、CG映像の制作に携わった後、米国ライフウェスト・カイロプラクティック大学へ進学。2004年 米国ライフウェスト・カイロプラクティック・カレッジ卒業2006年 カイロプラクティック・オフィス「オレア成城」開院藤原 邦康(ふじわら くにやす)DC プロフィール藤原 邦康DC整顎コラム新連載 Vol.1藤原邦康 DCDrDr藤原藤原ののDr 藤原の サブラクセーションやカイロプラクティックアジャストメントの本質が明確になるに伴って、『そのサブラクセーションを引き起こす原因は何か』という大きなテーマが浮上してきました。「サブラクセーション」が症状の原因であるということは、サブラクセーションを改善することで、筋骨格系の症状がその場で改善されるという臨床現場での検証からも明らかです。しかし、そのサブラクセーションを引き起こす以前の第一原因があるということを強く意識し始めました。 つまり、サブラクセーションは「結果」であり、本質的な「原因」ではないということです。10年ほど前より心身条件反射療法研究会を通じて、サブラクセーションなどの肉体内でのコントロール系異常を第二原因(内因)、その第二原因を引き起こす目には見えない精神的ストレス、環境的ストレスなどを第一原因(外因)として検査し、施術を行うシステム化された治療法をご紹介してきました。それまでの間、臨床現場でいろいろと試行錯誤しながら、検証した時期がありました。 カイロプラクティックの創始者である、DD.パーマーは、病気には原因が3つあり、それは神経系に対する構造的刺激(ストレス)、化学的刺激、自己暗示(精神的刺激)であるとしています。分かりやすく言えば、事故や怪我などによる構造的なストレスの結果としてサブラクセーション(神経関節機能障害)を引き起こします。また、毒素や栄養的な偏りなどの化学的なストレス、あるいはストレスによる精神的なストレスの結果としてもサブラクセーションを引き起こします。 しかしながら、このような第一原因が改善されると、第二原因のサブラクセーション(結果)が改善され、末端の症状が改善されるというような単純な理論ではないということは、臨床現場でも明らかでした。 例えば、捻挫などの外傷によって、靭帯、その他の軟部組織が損傷します。同時に関節のサブラクセーションが生じるわけですが、軟部組織の損傷が修復されたらサブラクセーションが改善されるという訳ではありません。そこには、神経学的に記憶化された機能異常が存在しており、サブラクセーションには「記憶」という概念を無視できないということを、後の臨床経験の積み重ねで、検証することができました。保井 志之 D.C.サブラクセーションの原因は何か(8)サブラクセーションと「記憶」(9) アクティベータ・メソッド(AM)にはアイソレーション・テストという、サブラクセーション(神経関節機能障害)があるかないかを検査する手法があります。例えば、腰椎5番、あるいは4番のサブラクセーションの有無を判定する際、右、あるいは左の腕を腰に置くポーズを取ります。 もしも、サブラクセーションが存在すれば、神経系の誤作動が刺激され、筋肉のトーンが変化して下肢長差が生じます。この反応は、神経系の反射作用を取り除いた後に、この検査を繰り返すと再度反応が示されます。この検査による陽性反応は、その部位の異常反応への調整が行われるまで再現されます。つまり、誤作動信号が神経系のエラーとして記憶化されているということが予測されます。 私はAMの臨床を始め、様々な臨床研究を通じて、「記憶」という概念が私たちの治療法にとても重要だと気づかせてもらいました。サブラクセーションを単なる「ズレ」ととらえるのか、脳や身体に記憶化された誤作動ととらえるのかでは、治療の質や深さが異なります。「ズレ」を治すカイロプラクターなのか、「誤作動記憶」を正常な記憶に上書きさせるカイロプラクターなのかという捉え方もできます。 特に慢性症状が改善されるということは、脳の誤作動記憶が上書きされた結果だと私は考えています。その仮説は、20年以上にわたる臨床を通じて、辻褄が合う理屈であり、患者にもなぜ慢性症状が長引くのか、なぜ慢性症状が改善したのかを明確に説明することができます。 また、ズレが慢性症状の原因だと患者が思い込んで、痛み信号が末梢からではなく脳で創り出されている場合もあります。その場合、患者の信念体系が脳の誤作動に作用しているので、コーチング手法を織り交ぜながら、患者の信念体系に変容をもたらす施術をします。すると、上位レベルの脳の「誤作動記憶」が上書され痛み信号が消去されます。 心身条件反射療法の研究を通じて、脳の三層構造の下位レベルである反射系のみならず、大脳辺縁系、さらには上位の大脳皮質系に及ぶ、誤作動記憶の調整法を日々研究しています。特に「記憶」という概念に関しては、徒手療法を志している治療者にはぜひ学んでいただきたい概念です。 (次号に続く)保井 志之DC

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