カイロタイムズ104号
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(3)2016年2月15日発行 カイロタイムズ 104号ことでしょうか。ジョン 法整備の面では韓国も日本も現在、似たような状況です。韓国でもカイロプラクティックは独立した専門職として認可されておらず、法的には医師や中医のもとでのみ治療が可能です。とはいえ実際には、多くのカイロプラクターが開業し、治療もしています。また、不十分な教育を受けた自称カイロプラクターが数多く存在します。法制化には、質の高い教育、つまりカイロの場合は、法制化された国と同じ正規教育が実施されていることが必須条件です。 幸いにも韓国は教育の面では、ハンソ大学という、国に認可された大学によるカイロ正規教育が提供されていますので、法制化も遠くないと考えています。そうなれば、基準以下のカイロ教育もなくなります。 一方、日本には残念ながら、政府認可の正規教育機関による教育が存在しません。しかし、法制化のためには、日本の教育制度の枠内でカイロ教育が実施されることが理想的でしょうし、少子化で経営が厳しい大学が多い今、カイロプログラムに興味を持つ学校もあるでしょう。 その時に必要とされ、今の日本のカイロ業界で絶対的に不足しているのが、博士号、あるいは最低でも修士号を持ち、カイロプラクティックを教えられる講師です。職業学位であるDCを所有しているだけでは、大学で教えるには不十分なのです。 私自身、米国で修士は取得していましたが、ハンソ大学で教えるためには博士号が必要となり、韓国に帰国してから苦労して取得しました。 また、カイロの研究・学術面も欧米に劣りますから、研究や論文を充実させていく必  2015年末、所用にて来日した韓国ハンソ大学カイロプラクティック学科長ハンサク・ジョン博士に、アジアのカイロプラクティックや自国および日本での今後の展開について聞いた。編集部 まずはハンソ大学とカイロプラクティック学科について簡単にご紹介頂けますか。ジョン学科長(以下ジョン) ハンソ大学は、1991年設立の私立の総合大学です。 カイロ学科は1997年に誕生しました。豪州RMIT大学との提携によるCSCプログラムから始まり、現在は、大洋州カイロプラクティック教育審議会(CCEA)によるフルプログラムのアクレディテーションを取得しています。米国ブリッジポート大学と提携しており、カリキュラムは米国のCCE基準を参考にしています。しかし、総合大学であるハンソ大学では、学生はプレカイロ科目を他の理系学生と一緒に学部で勉強し、理学士を取得します。その後、カイロ専攻希望者は大学院に進学して専門課程を学びます。カイロプログラム修了時には、学術学位として理学修士、職業学位としてDCを授与されます。現在、学部・大学院あわせて170名程が在籍しています。 学位の面では欧州に近いですね。これだと、カイロプログラムを卒業した学生は、臨床家としてだけでなく、研究者や教育者を目指し、博士号過程への進学がしやすく、将来の選択肢が広がります。 その他、航空学部やデザイン学部は韓国有数です。編集部 広大なキャンパスと素晴らしい施設や設備をお持ちですよね。日本のカイロ業界との関わりについて教えて頂けますか。ジョン 2010年から株式会社ネットと提携し、理学修士号プログラムを提供していました。一昨年の提供終了までに約50名の修士号取得者を輩出しました。そのうち7名が博士号プログラムに進学し、今年(2015年)夏に卒業しました。 また、東京カレッジ・オブ・カイロプラクティック(TCC)とも友好な関係にあります。今年3月に開催された「カイロプラクティック国際臨床教育会議」にも招待されましたし、来年も参加する予定です。 2010年より毎年1回、「カイロプラクティック国際会議」を韓国にて開催し、韓日の学生や臨床家がカイロプラクティックの論文発表を行っているのですが、TCCの故竹谷内一愿先生にお越し頂いたこともあります。国は違いますが、竹谷内先生は、カイロプラクターとして教育者として偉大な先達であり、心から尊敬しています。 個人的にも、親戚も住んでいますし、日本は大切な国です。編集部 韓国本校のカイロ学科や、その他大学業務だけでも既に十分大きな責任と仕事をお持ちだと思いますが、なぜ日本との提携や協力を積極的に行っていらっしゃるのでしょうか。ジョン 韓日だけでなく、アジアのカイロ業界が協力しあうことを目標に活動していると言った方がいいかもしれません。マレーシアの国際医科大学(IMU)の外部試験官の仕事もさせて頂いていますし、フィリピンや中国とも交流があります。 ご存知のように、カイロは西洋発祥の代替療法です。しかし、アジアには伝統的に各種手技療法が多種存在し、根付いています。また、法整備や教育の面から考えても、西洋とは違う形があるべきだと思っています。 その中でも、韓国と日本はカイロの状況や、カイロに限らず、国の制度や社会状況が大変よく似ています。もちろん、地理的にも近いです。互いに協力し合えることがあるのではないかと思いますし、ハンソ大学がお役に立てることがあればできる限りのことをさせて頂きたいと思っています。編集部 具体的にはどういう要があります。しかし、修士号や博士号を所有した研究者が絶対的に足りないのです。 株式会社ネットは、そういった面で将来を見越していたのでしょう。豪州マードック大学CSCプログラム卒業生が自グループに多数在籍しており、その人たちを対象とした、さらなる学術的プログラム提供を模索していました。そこで、ハンソ大学が理学修士コースを提供することになったのです。編集部 仮に、日本の他の団体がハンソ大学との提携を求めた場合、検討されますか。ジョン もちろんです。前述の提携プログラムは修士号でしたが、学士号の提供も可能です。ただし、世界的に認められる学位を授与されるプログラムですから、勉強は楽ではありません。教材は日本語に翻訳され提供されますが、学生は、英語で論文を執筆しなければなりませんし、プログラム自体はオンラインですが、在学中、何度か訪韓し、大学で直接授業を受けなければなりません。編集部 ご自身のことについて少しお話し頂けますか。ジョン 韓国で育ち、カナダの工科大学に進学しました。将来はエンジニアになるつもりでしたが、在学中、腰痛を治療してもらったのがきっかけで、カイロプラクターを志しました。ローガンカイロプラクティック大学を卒業後、パーマー大学で修士課程に在籍しながら、非常勤講師として働いていた時に、ハンソ大学講師職のお話を頂き、帰国しました。そして10年前にカイロ学科長に就任しました。編集部 今後の展望や予定について教えて頂けますか。ハンソ大学カイロプラクティック学科長インタビュー世界のキーパーソンにインタビュージョン学科長1998年 ローガンカイロプラクティック大学卒業2010年 カイロプラクティック大学協会(ACC)役員2012年 「カイロプラクティック教育ジャーナル」編集委員2013年 「カイロプラクティックメディスンジャーナル」編集委員2014年 韓国カイロプラクターズ協会会長2014年 国際カイロプラクティック試験委員会(IBCE)アドバイザーハンサク・ジョンDC, PhD, CCSP, FCBP学科長プロフィールジョン まず、韓国ではアクレディテーションを取得していますが、これは通過点にすぎません。教育の質をますます高めていくつもりです。現在も、学生全員に、米国カイロプラクティック試験委員会(NBCE)試験の合格を課していますが、今後、英語での授業をさらに増やすなどして、卒業生が世界を舞台に活躍できる準備をしてあげたいと思っています。 次に、韓国も日本も、政府にカイロを認めてもらうにはその科学的根拠を示すことが必要ですから研究分野の充実は必須です。今後はこれまで以上に、研究に力を入れていきたいと思っています。 7名の日本人博士号取得者とハンソ講師共著の論文も、一部は既に一流の科学学術誌に掲載されていますし、今後も国際的学術会議やWFC大会などに提出を予定しています。 また、来年(2016年)も前述の「カイロプラクティック国際会議」を開催予定です。日本からも昨年まで以上に多くの方に参加頂きたいと思っています。日本のカイロ業界との関わりアジアのカイロプラクティック将来の展望と予定 はじめまして、坂西龍之介と申します。私はRMIT大学日本校を卒業後、2008年にパーマー大学大学院に留学し、臨床研究修士課程を専攻しました。帰国後はこの知識を取り入れながらいくつかのカイロプラクティッククリニックにて臨床と研究を続け、昨年、2人の先生と共に二子玉川にてアクティブ・エイジングカイロプラクティックを開業いたしました。 大学院進学のきっかけは、RMIT大学在学中にぶつかったいくつもの疑問でした。無駄の少ない鑑別診断方法は?ある状態にはどのアジャストメントがベストで、何回で良くなるのか?再発率とその予防のために必要な施術頻度は?その答えに近づくためにはより専門的な探求が必要でした。RMIT大学を卒業後、恩師である故・竹谷内一愿先生や吉川裕介先生、先に大学院への入学を考えていた和田勝義先生や多くの皆様の励ましとご協力により、パーマー大学修士課程入学を申請しました。 入学審査も無事に通過し、期待を胸に渡米しました。修士課程で臨床研究の基礎と統計学、生命倫理、論文読解などを履修する一方で、米国国立衛生研究所(NIH)からの助成金で行われている研究プロジェクトの研究員として働き、多くのことを学びました。カイロプラクティックの研究分野を牽引する研究者たちの知識と熱意は圧倒的でついていくのに必死でしたが、井田知孝先生が会長を務めていたパーマー日本人会からの温かいサポートを得ながら過ごした2年間はとても充実してあっという間に過ぎました。 臨床技術において、日本はアメリカとの差を縮めたかもしれませんが、研究を含むカイロプラクティック業界全体としてのプレゼンスに関しては大きな違いがあり、今後も謙虚に学ぶ必要性があると実感しました。その代表例として、米国ではカイロプラクターは日本の医師と同じように診断権を有し、保険が適用されていますが、その背景には多額の資金を投じた積極的な研究に裏付けされた、カイロプラクティックをサポートする事実があります。米国政府は予防医学へも力を入れているため助成金も与えていて、これまでに数億円の研究助成金がおりています。一方で、日本におけるカイロプラクティックの研究分野は遅れていると言わざるをえません。これは一朝一夕では実現できないため、長いスパンでの研究計画・活動が大切だと考えます。 帰国した私は「研究は臨床に役立つのか」という質問を多く受けました。研究から得パーマー大学大学院にて臨床研究修士取得時代を創るカイロプラクターたち2007年 RMIT大学日本校卒業2008年 パーマー大学修士課程入学2008年 パーマー大学カイロプラクティック研究センターに研究員として勤務2010年 パーマー大学修士課程修了2011~2014年 ウイケアカイロプラクティック勤務(神奈川県)2011年~ 東日本大震災被災地でのボランティア活動(宮城県・福島県)2015年~ リガーレ・カイロプラクティック勤務(横浜・新宿)2015年 アクティブ・エイジング カイロプラクティック開業(二子玉川)坂西 龍之介(ばんざい りゅうのすけ)MSプロフィールられた統計データや情報は、臨床にとても役立ちます。意識して行っているかどうかにかかわらず、臨床的かつ研究的事実や日々の臨床で得た様々な情報をもとに、私たちは推論を行い施術にあたっています。具体的には、禁忌症状の鑑別診断に必要な問診と検査、問題点を導き出すための検査の正確性と一貫性、最適な施術方法の選択などは、こういった研究結果に基づく情報に支えられています。もちろん、先輩に臨床経験について聞くことや自分で考えることも研究の1つです。 研究は、その臨床推論を支える質の高い情報源となります。カイロプラクティックの研究も少しずつですが進んでいますので、個人的にはそれらを出来るだけ臨床に取り入れると同時に、自分からも研究をして情報発信していきたいと思っています。坂西龍之介MS

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