カイロタイムズ103号
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(4)2015年11月16日発行 カイロタイムズ 103号 カイロプラクティックの施術をする際、基本的に検査、あるいは分析をして、どの部位をどのように矯正するかが決定されます。カイロプラクティック大学で教授されている分析法には姿勢検査、疼痛検査、レントゲン検査、動的触診、静的触診、可動域検査、整形外科的検査、下肢長検査、神経学的検査法があります。 ほとんどのカイロプラクティック大学では、特に脊柱の動的触診法と静的触診法にあればほぼ完全な一致、0・61〜0・80の間にあれば実質的に一致しているとみなされます。触診法のkは0・5以下ですのでその検査の信頼度は低いということになります。一方、下肢長検査法のkは0・78ですので、臨床的にも容認できるレベルの信頼度ということになります。触診法は、矯正のためのサブラクセーションの分析というよりも、施術前と施術後の効果を患者に体感して頂く点において説得力のある検査法になると私は考えています。 米国では、多くのカイロプラクターが脊柱を評価するためにレントゲン分析を行います。撮影したレントゲン写真に線引きをしてミスアライメントを分析します。レントゲン写真は、通常の写真と同じように一瞬の撮影です。痛みがあれば、歪んだ背骨になるでしょうし、気分が良くなければ、顔の表情が曇るように、背骨のアライメントにも多少の変化が生じるのではないでしょうか。そのような一瞬の撮影でどれだけの分析価値があるのか疑問が残ります。 多くのAMドクター達はレントゲン分析を矯正のための指標にはしていません。レントゲン検査は、主に骨に病理的に異常がないか、あるいは、施術前と施術後のどのように変化がもたらされるかの判断に使います。AMドクターがアジャストメントの指標にするのは、下肢長検査です。この下肢長検査がAMの根幹となり、主軸の検査法といえるでしょう。臨床的にこの下肢長検査法の熟練度に伴って、AMの臨床成果も上がり、患者も増える傾向があるようです。     (次号に続く)時間を費やして教授されます。多くのカイロプラクターは矯正する前の検査として触診法を行います。この触診法と下肢長検査法を比較検証した研究論文がいくつか発表されています。それらの論文を総合的に検証した報告によると、統計学的数値(Kappa Rating)で静的触診法は0・28、 動的触診は0・47、下肢長検査法は0・78です。 kが0・81〜1・00の間に下肢長検査法の信頼度保 井 志 之 DCVol.5 前回の内容では、新生児や乳児など小さな赤ちゃんにおけるサブラクセーションの発見と、その他の診立てについて、一般的な手法では困難を伴う場合も多くあるため、特に「視診」と「観察」が重要になるとお伝えしましたが、その点についてもう少し加えます。 臀裂(おしりの割れ目)を左右から寄せ、臀裂の曲がり方や仙腸関節部のくぼみをチェックし、臀裂が顕著に左右どちらかに曲がる場合は、その側での仙骨の前方下方変位(AI Sacrum)が示唆され、仙腸関節のくぼみの非対称性は、仙骨の後方変位(P-R、P-L)の可能性を示唆します。 すでに立つことができる1歳前後の子供では、全体的な運動性はもちろん、特に下半身の視診において膝や足の顕著な回内や回外をチェックすることで、骨盤部でのサブラクセーションの所見に繋がることがあります。また、つま先で歩く、かかとが床に付きにくいなど、歩き方に特徴が見られた場合、下半身はもとより、上位の運動感覚神経系との関連性を優先的に考慮して、後頭骨を中心とした頭蓋骨や、上部頸椎での問題の有無を見極める必要があると強調します。 次に、新生児や乳児におけるサブラクセーションの存在を示唆する代表的な所見についてですが、まずは母乳(ミルク)育児困難や、首がすわりにくい場合では、頭蓋骨および上部頸椎、また頭蓋骨から仙骨にかけて「硬膜のねじれ」を伴うサブラクセーションの可能性を考慮し、それに対するアジャストメントが有効な場合が多く存在します。そして、帝王切開での出産の場合では、上部から中部胸椎のチェックが乳幼児では特に重要になると言われます。 そして、赤ちゃんの成長に合わせて、寝返りやうつぶせができる時期になれば、胸椎全体、特に中部および下部胸椎におけるサブラクセーション、またおすわりができる時期では腰椎部におけるサブラクセーションの存在に注意するよう心がけます。 その後は、ハイハイ、つかまり立ちができるタイミングには下部腰椎および仙骨を中心とした骨盤部のサブラクセーション、そしてよちよち歩きで頻繁におしりから床に落ちるような時期は、仙骨(特に第2結節)および下部腰椎と骨盤部を中心にアプローチする重要性が指摘されます。小児カイロの臨床的考察②vol.7第50回ダイレクトテクニック仲井康二DC, CCSP 仙腸関節はとても不思議な関節です。それが最終回のトピックに選んだ理由です。 カイロプラクティック大学のインターン生時代は仙腸関節に拘り、「仙骨を治せば、何でも治せる!」と息巻き、僅かな変位でも見逃さずにアジャストをしていました。 卒業後、仙骨に拘りながら4年程ロスアンゼルスで働かせて頂いた後、帰国して間もなく、SOTの“仙腸関節”という小雑誌の翻訳をさせて頂くことになり、仙腸関節に対する興味は、より一層深くなりました。しかし時が経つにつれ、仙腸関節に対して次第に疑問を抱くようになり、反対に眼を背けるように成りました。学べば学ぶほど、仙腸関節の働きや、機能が分からなくなってしまったからです。  解剖学的に仙腸関節は耳状面の凹凸な平面関節で、上下半分には滑液胞(つまり滑液が含まれる)があり、半分には滑液胞は含まれていません。 西洋医学の解剖学には、大きく2つの流派があり、英国や米国を代表とする一派と、レオナルド・ダビンチの流れを継いだイタリア系の一派に分かれます。日本を含む米国派は、仙腸関節は偽関節で、基本的に可動性を備えていないと考えていました。これは頭蓋の縫合部も同じです。しかしイタリア派は、仙腸関節や頭蓋の縫合部は可動性を備えていると考えて来ました。 もちろんカイロプラクティックは、仙腸関節は可動性を備え、身体に大きな働きや影響を与えると考えています。頭蓋の縫合部も同じです。 また仙腸関節を横切る筋の代表は梨状筋です。大臀筋も部分的に横切る可能性を備えています。 モーション・パルペーションの立場に立つと、仙腸関節は大きく2つのパターンに分かれます。まず仙骨に対して寛骨がサブラクセーションを起こす場合があり、寛骨のPI(PSISが指標)、またはASが生じ、同時にEXまたはINが生じる可能性もあります。 もう1つのパターンは寛骨上で仙骨がサブラクセーションを起こす場合で、左右の仙骨のPIまたはPSの変位が生じます。実はガンステッドにはPSは存在しません。  以前から仙骨の“首ふり運動”が定説となっています。歩行時に仙骨底の部分がお辞儀をしながら動くという説で、左右の寛骨が内転すると、仙骨底が前方に首を振ると考えられています。アプライド・キネシオロジーのDr.グットハートも、この説を支持していました。またこの首ふり運動は、単純にお辞儀をするだけはなく、8ノ字を描きながら動くとも提唱されています。別名“メビウスの輪・運動”です。 つまり歩行時に仙骨は寛骨上で首ふり運動をしながら、8ノ字を描くと考えられているのです。これは構造学的、または人間工学的な立場からの発想だと思います。 つまり左右片側の仙骨底が後下方したり、後上方に動くことになりますので、PSリスティングを加えた由縁です。PI変位の時は、第2仙骨付近にコンタクトしますが、PSの時は、第3~5仙骨の部分が後方に変位するので、アジャストする時は、その部位付近にコンタクトすることになります。 しかし、そのような運動をどの筋が司っているのでしょうか。基本的に身体の動きは、筋群の収縮・弛緩によって行われる筈です(重力も関与しますが)。答えが出せずに悩み続けています。  97~98年に来日したDr.グットハートは、仙骨の下方変位を提唱しました。確かにPSISと仙骨底の縦方向の距離を比較してみると、1~2cmしかない人が多く、それを正すと3~4cmにまで回復します。後から気付いたのですが、腰仙部の緊張(硬結)も、このテクニックを施すと、大きく緩むことが分かりました。おそらく下方変位している仙骨が、それ以上、下方変位しないように腰仙部付近に位置する多裂筋などが緊張して下方に変位するのを防いでいるのだと思います。これは腰椎の分離症やすべり症を持つ人と同じです。 また同じ時に仙棘靭帯や、仙結節靭帯を緩めるテクニックを施すと、斜角筋群の緊張が弛緩することも教えてくれました。 不思議なことに、この2つのテクニックを施すと、多くの仙腸関節の歪み(サブラクセーション)が解放されてしまうのです。当時は驚き、戸惑いました。 仙骨が数センチも下方変位するなど、腸腰靭帯や、前・後仙腸靭帯、骨間仙腸靭帯などの存在は、どう解釈したら良いのでしょう。仙骨は仙腸関節上で、そのような大きな可動性を持つのでしょうか。現実と常識との戦いは、今でも続いています。  また最近、不思議な現象に出会いました。まず座位の状態で、頸椎の能動的な可動域検査をします。屈曲・伸展、回旋、側屈の動きです。次に体幹の回旋可動域を受動的に行い、側屈は左右の肩甲上腕関節の受動的な外転の動きを検査して記録しておきます。 次に伏臥位の体勢で、仙骨の1番から5番まで、仙骨を左右から前内方に向けてリズミカルに圧を加えます。すると8~9割程度の人に、左右のどこかに前内方の動きが制限、抵抗または低下している部位を認めます。 検出したら、アクティベーターでもメリック・テクニックでもターグル・リコイルでも良いので、可動性が減少している方向に、軽くスラストを加えて下さい。動きが他の部位と同様にスムーズになれば終了です。 再び座位になってもらい、頸椎や体幹の動きを再検査してみて下さい。制限されていた可動性が大きく改善している筈です。 これは今までもルーティン的に行っていた施術ですが、アクティベーターで軽く圧を加えて仙骨の動きを正しただけで、これ程までに身体の動きに変化を与えることが出来ることには、大変驚きました。  仙腸関節が身体の大きな鍵を握っている部位であることは確かです。しかし理論的に、または科学的に証明することが出来ないのです。摩訶不思議な部位としか表現できません。 多くのテクニックが仙腸関節に注目しています。今まで色々な理論を模索して来ましたが、いまだに納得できる答えに遭遇していません。SOTやAK、ガンステッド等多くのテクニックは、仙腸関節を重視しますが、まだまだ奥深い謎に包まれた部位だと思います。  身体に備わる不思議な謎に、これからも挑戦して行きたいと考えています。現在の科学の基本は“How?”ですが、Dr.グットハートは、常に“Why?”を追求しなさいと教えてくれました。自分もこれからも“Why?”を追求して行く所存です。  今回が最終回となります。2007年の1月号(カイロタイムズ54号)から8年間にわたって、なんと50回も連載させて頂きました。8年間はアッという間でしたが、長い間お付き合い下さり、本当にありがとうございました。またどこかでお会いできる日を楽しみにしています。        (完)仙腸関節(図1 仙腸関節)

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